14
「よぉ、鷹一。あそこ見ろよ」
紅音は、まるで天馬を鷹一の隣を歩かせないようにしようとガードをしているので、それに従った結果、並んで歩くより少し後ろを歩くことを選択したのだ。
「ん? どしたよ」
「あっち、風間じゃん」
「んお」
天馬が廊下の先を指差すと、そこには、壁にかけられた掲示板を睨んでいる風間がいた。
風間のみならず、数人の生徒も、似たような表情をしている。
「よぉ、風間」
「ん、朝比奈……それに、飛騨と、王ヶ城さんか」
片手を上げて、風間は軽い挨拶をする。
「何見てたんだ? 学校の掲示板って、クソ情報しか基本乗ってないだろ」
「どういう偏見だ?」
と、鷹一の何気ない言葉を制し「これだよ」と、掲示板のど真ん中に貼り出された紙を指さした。
そこには「
人数無制限、そして日付は一週間後の放課後。
場所は、
「妃乃宮、って……」
さすがに、数日前のことを忘れるほど、鷹一もバカではない。
その名字は、王ヶ城家と同じ
「ふうん。やんのか?」
鷹一の問いに、風間が頷く。
「あぁ。勝てるとは思わないが……それでも、
「あ?
「詳しくは、王ヶ城さんなり、飛騨なりに聞いてくれ。スパー相手で、勝てないだろうとはいえ、傷跡くらいは残したいからな。すぐにでも練習だ」
と、そう言って風間は、とっととその場を去っていった。
「王ヶ城、妃乃宮夜雲って?」
「夜雲ちゃんは、この学校の三年生です。入学当初から注目されてて、二年の今頃には
「……プロデビュー前だが、プロが内定してる、学生ってことか」
「え、ってか、夜雲ちゃん?」
納得する鷹一と、引っかかった風の天馬。
「そりゃあ、同じ
「そりゃあそうだろ。オレは、
「……私は、鷹一さんのそういうところが好きですし、その気持ちは当然だと思います」
惚気か? と呟く天馬を無視し、紅音の表情が酷く真剣なものになる。
「でも、正直に言うと……今の鷹一さんじゃ、夜雲ちゃんには勝てません。それは、私の
「へっ。上等じゃねえか」
鷹一はニヤリと笑い、掲示板の張り紙を見る。
「予約とかはいらねえのか? オレと風間で、少なくとも二人いるわけだが……まさか、全員一気にやるつもりなんかな」
「夜雲ちゃんなら、まあ苦にしないでしょうね」
「そんなに……?」
「よお、天馬はどうすんだよ?」
いきなり話を振られて、一瞬地団駄を踏むようにうろたえる天馬。
「お、俺? いや、俺は……」
「出ようぜ。どうせなら、高みを知っておくのはいいことだし。失うものなんてねえだろ」
「まあ、それはそうなんだけどさぁ。……いや、そうだな。男らしく、挑んでみるか!」
「さすが、
鷹一は拳を突き出すと、天馬も遠慮がちに拳を合わせる。
「うんうん、
まるで、猫同士のじゃれ合いを見るように、喜びに満ちた顔で、紅音は鷹一と天馬を見ていた。
その視線に気色の悪いものを感じながらも、鷹一は頭の片隅で考えていたことを口にする。
「王ヶ城、お前……妃乃宮先輩と知り合いってことは、戦法とかいろいろ知ってるってことだよな?」
「まあ、そうですね。一応、夜雲ちゃんのことはとっても知ってます」
「勝てないかもしれないが、だからといって、勝つことを諦めたわけじゃねえ。勝つために、練習見てくれねえか」
そう言って、鷹一は小さく頭を下げる。
その頭頂部を、信じられないものを見るような紅音の表情が、どんどん赤く染まっていく。
「えっ、それって。わ、私を、トレーナーに……?」
「正式にじゃねえぞ。今、妃乃宮先輩を倒すための、最善手ってだけだ」
「なんかその発言、
「うるせえよ! 誰がツンデレだ!」
「せっ、精一杯がんばります!」
背筋を今まで以上に伸ばし、敬礼をする紅音は、まるで理想に燃える新人警官のようだった。
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