4
■
そして、それと同時に、学園内にある
挑んだほうがその予約を行うのは、三条学園の学生としての
今回挑んだのは風間なので、風間がスマートウォッチ、ギアのメニューから予約を取った。
風間秀也VS朝比奈鷹一。
そう記されたギアの画面を見ながら、鷹一は放課後を待った。
そして、いよいよその時がやってきたのである。
「鷹一~。マジでやんのぉ? Aクラスとぉ?」
眠っていた鷹一を起こしたのは、心配そうな天馬の声だった。
顔を起こし、天馬と寝ぼけ眼を合わせる。
「あんだよ、お前……。昼休みは逃げただろーが」
「その説は」と、手を合わせて頭を下げる天馬。「でもさ、鷹一も鷹一だぜ~。なんで王ヶ城さんに惚れられたり、その王ヶ城さんを取り合って、Aクラスの風間と
「お前さ」
鷹一は立ち上がって、伸びをする。
「喧嘩売られて、相手が自分より強いからって、殴るの我慢するのか?」
その鷹一の表情には、ただ
「いや、そりゃあ……。俺だって、AAAの
「
と、鷹一はそう言って、教室を出た。
「あ、おい鷹一! 待てって!」
天馬もその後ろを追いかけ、二人で
廊下を
「なあ、お前さ……。
「そりゃマジだろ。じゃなきゃ言ってねえし」
「お前さ、AAAの試合、ちゃんと見てっか?」
「当たり前じゃん。一〇年くらい前に初めて見てから、毎日見てるよ」
「それから
「だなぁ」
「知ってっか? すげえ選手がいたの。
「
「な、なんだよ。知ってるんじゃん」
暁龍衣。
それはAAAの選手の一人だ。
すでに引退しているものの、AAAのファンが口を開けば「暁龍衣が
つまるところ、それだけファンの心に自らを刻み込んだ選手である。
では、一体どういうところが、人々の心を掴んだのか。
一撃で倒すのは、体格など生まれ持ったものが響きすぎる。
しかし、触らせずに勝つことは、技術を磨きさえすれば、決して不可能ではない。
もちろん、それでも常人には
「鷹一だって、暁龍衣の戦い方がすげえことくらい、わかってんだろ?」
「もちろん」
「あんな人でさえ、
「たりめーだ」
「いや、いやいやッ。お前、暁龍衣より強くなれると思ってんのかよ!」
天馬の
AAA選手候補として、暁龍衣の凄さは身にしみてわかっているから。
それがわからないようであれば、そもそもAAAの選手なんて目指す資格はない。
AAAの選手が扱う
そんな能力に対応し、相手に触れさせず勝ったこともある暁龍衣は、異常と言ってもいい高みである。
だからこそ、声が大きくなった。
それがどんな感情から発せられたのかは、彼にもよくわかっていないが。
「高い壁があったとして、その壁に立ち向かわねえのは、男が廃るだろ」
そう言われてしまえば、天馬はもう黙るしかなかった。
鷹一の言葉を信じたわけではないし、彼が暁龍衣を超えられると思ったわけでもない。
しかし、夢を語る男をバカにしては、同じ男として恥ずかしいと。そう思ったのだ。
「……わかった。もう何も言わねえ。でもさ、鷹一」
「あん?」
天馬は、少し小走りで鷹一の隣に立つと、その首に気安く手を回した。
「俺は、まだお前と付き合いは短いけどさ。でも、
「ふっ」
鷹一は小さく笑うと、天馬の手を取った。
「ならお前、ギア見せてみ?」
鷹一はにこやかに言うが、それとは対照的に、天馬の表情は血の気が引いたようだった。まるで太陽と月のよう。
「
「い、いや、それは、あ、当たり前じゃん!」
鷹一は素早く天馬のギアを操作し、画面を表示する。
そこには、風間に一〇〇〇ポイント賭けたという証が示された。
生徒は、放課後に
そして、賭けたほうが勝ったらポイントをもらい、より
「……
「い、いやあ。だってほら、こっちも生活かかってるからさ?」
「お前なあッ! 友情語るんなら身銭切れよッ!! オレが
そのまま、鷹一は天馬へのヘッドロックへと移行した。
こめかみを締め付けるような、痛みを重視した形である。
「わーッ! ごめん、ごめんて! 次から
鷹一は、天馬の言葉を信じたかのように、ヘッドロックから開放する。
「チッ。まあ、まだ今のオレじゃあ、実績がねえからな……。今回だけは許してやんよ」
「さ、サンキュー……」
鷹一は天馬を開放し、再び並んで歩き出す。
その様だけ見ると、まったく
そうして二人は、
鷹一の足取りは軽く、浮足立っているようにすら思える。
これが、彼にとって始めての
そう思えば、
■
校舎を出て、鷹一が紅音に告白された桜の木を横目に、三条学園の敷地を奥へ行くと、六つの
一つ一つは、一般的な体育館程度の大きさではあるものの、そこは
ここで授業を行い、そして
ある意味では、校舎以上に大事な施設なのだ。
その六つの内の一つ、三の数字を割り振られたスタジアムに足を踏み入れた。
受付の女性職員に「試合の予約してる、朝比奈です」と告ると、慣れた笑顔で「では、第ニ控室へどうぞ。トレーナーがお待ちですよ」
と案内された。
「……トレーナー?」
試しに、上空を見て、思い当たる人物の顔を思い描いてみる鷹一だが。
何度も、どういう思い返し方をしてみても、一人しかいなかった。
■
「あっ、来ましたね、鷹一さん!」
控室に入ると、そこにはやはりと言うべきか、紅音がいた。
大きな姿見の前で、髪型を直していたらしい。
白い壁の狭い室内に、椅子と鏡があるだけの簡素な部屋。
その奥に、ひときわ目立つ、でかい筒型の機械があった。
「ったく。なんで王ヶ城がここにいんだよ」
「そりゃあ、鷹一さんのトレーナー候補ですからっ! ああ、鷹一さんの
「あ~……俺は即逃げちゃったから、あんま詳しいことわかってないんだけど。なんで王ヶ城さんは、そこまで鷹一が
「ええっ。そんなの、これですよ」
天馬の疑問に、紅音は自らの瞳を指差した。
「えっ。……勘?」
「勘ではなく、目です。私が見て来た人の中で、鷹一さんが一番ときめいたんで」
「入学してまだ一週間も経ってないのに、決めなくてもいいんじゃないの? 時期尚早、っていうか」
「じゃあ天馬さん。天馬さんは、服って買いに行ったことあります?」
「えっ、そりゃあ、まあ。俺、こう見えてもおしゃれ大好きなんで」
「では、服を買いに行って、いくつかの店を見て回った時。「あ~、結局、最初の店がいちばんピンと来たなあ」って思ったことは?」
「そりゃ、まあ……あるけど」
「そういうことですよ。順番なんて、運命には関係ないんです」
息を漏らす天馬は、その態度から論破されたことがわかってしまう。
そんな言い争いをしている紅音と天馬を見ながら、鷹一はようやく口を挟んだ。
「よぉ、もうそろそろ始まるんじゃねえのか?」
その声に、二人は鷹一の方を振り返る。
すると、鷹一は、黒いズボンに、上半身裸。その上に、青いスカジャンを羽織った姿になっていた。
「あれ、もう
「ああっ、鷹一さんの着替えを見逃したっ!」
紅音は天馬を射殺すような、鋭い視線を向けた。
その視線にビビったのか、視線をそらしながらも、背筋を伸ばす天馬。
「なあ王ヶ城。トレーナー志望なら、もうハコの情報は仕入れてんだろ?」
「も、もちろんです!」
「都合のいい時だけ、トレーナー扱いは可哀想じゃね?」
天馬の言葉は無視され、紅音は手首のギアを操作し、大きなパネルを空中に出現させた。
「さっき発表されてましたよ。今回の
「どっちが殺し屋だ?」
「鷹一さんですね」
「お、そりゃあよかった」
鷹一は楽しそうに笑うと、拳同士をぶつける。ゴッ、と、肉と骨がぶつかった鈍い音が響いた。
「殺し屋側ってことは、開示情報はこっちのほうが多そうだな。
そして、次の瞬間。
ブザーが鳴り響き、続いてアナウンスが発せられる。
『風間秀也、朝比奈鷹一。両選手。転送ポッドに入ってください』
鷹一は、その声に応えるように、両手で髪を後ろに撫で付ける。
「さて……。
そう言って、鷹一は踵を返し、控室の奥に鎮座する、白い筒状の大きな機械に手を触れる。
すると、自動ドアがプシュッと空気が抜けるような音を立てて開き、人が一人収まりそうなスペースが露出した。
ここに入ることで、戦場へと転送されるのである。
「あっ、鷹一さん」
その呼びかけに振り返ると、紅音が鷹一の左手を取り、自らのギアと、鷹一のギアの画面をあわせた。
『
笑顔の紅音は、口を動かさずに、そう言った。
『相手はトレーナーいんの?』
それに対し、鷹一も、脳内で交信を返した。
『え? えと……確か、まだいないはずです。私に
「だったら黙って見てな。喧嘩売ってきた相手を叩き潰すコツ、知らねえの?」
鷹一は口でそう言って、転送ポッドに収まる。
「……叩き潰すコツって?」
「簡単。同じ土俵で、同じ条件で、だ」
そう告げると、ポッドは鷹一を認識したのか、再び自動ドアを閉じた。
そして、鷹一を
作り出された亜空間に存在する、ハコに適した場所へ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます