5
■
AAAルール。
試合は、地形と設定が決められたハコと呼ばれる亜空間で行われる。
ハコの地形、勝利条件等は、試合前にランダムで決められた設定に左右される。
試合開始前に持ち込んでいい
ただし、試合中に条件を満たすことで、新たに獲得することができる。
■
まっすぐ伸びる誰もいない電車の中に、鷹一は立っていた。
ガタンゴトンと音を鳴らし、揺れている車内で、鷹一は揺れずに立っていた。
『さあ、両選手!
鷹一の脳内に、司会女性AIの声が鳴り響いた。
同時に了承すると、勝手に鷹一のギアから宙に画面が飛び出してくる。
そしてそれは、風間の方でも起こっていることだ。
『
その画面に記されていたのは、鷹一と風間の試合を観戦している生徒、そしてネットを通じた配信で、この試合を見ている会員からの賭け金に応じた倍率だった。
そうして稼ぐのが、三条学園のルールである。
現時点の
風間秀也、1.25倍。
朝比奈鷹一、10倍。
それは、下馬評では、鷹一が圧倒的不利であることを示していた。
当然だろう、
鷹一が勝つと賭けるのは、よほどの
「へへへっ。いいねえ。ナメられてりゃ、それだけ
そう言って、鷹一は拳をぶつける。
そして瞬間、試合開始を告げるブザーが鳴り響いた。
試合開始、だが。
そこですぐ選手同士が殴り合わないのが、AAAの醍醐味である。
相手と向かい合わない時、相手が何を想像し、自分が有利になるためにどんな作戦を考えているかを、鷹一も、そして風間も考えている。
そして二人の頭の中を、今見ている観客達も考えているのだ。
あるだろう、ここからのために。
鷹一はギアを操作し、開示情報を閲覧する。
今回のように、鷹一は
しかし、鷹一には「相手がどこからスタートしたのか」の情報が与えられている。
それは、殺し屋が相手の行動を調べてから行動しているという
ギアから表示されるウインドウを見ると、風間は3号車からのスタートであること、ドアの上に貼られた表示を見ると、今鷹一がいるのは、六号車だとわかった。
「さて……オレがあいつなら、どうすっかな?」
イタズラを考える少年のように、鷹一は笑い、顎を擦る。
風間は、鷹一がどこからスタートしているのかは知らない。
であれば、鷹一がするべき行動は、一つ。
「行くかッ。“
鷹一は、ギアから飛び出したウインドウを殴り、“
思い切り窓を殴った。
■ 三号車、風間。
風間は、
ドア上の表示を見ると、そこが三号車であることがわかる。
(……今回、僕は標的側だったな。朝比奈には、なにか開示情報があると見るのが自然だ。殺し屋側で考えるとなると、位置情報くらいが自然だろうな)
風間は立ち上がると、ギアを操作し、自分の目の前にいくつかのウインドウを出現させ、そのうちの一つに触れた。
「“
その瞬間、ウインドウが砕け、そして、風間の腕には、フェンシングの剣が握られていた。
ナックルガードに丸い柄。しかし、そこには刃がない。
持ち手だけがある、フェンシングの剣が、風間の手には握られている。
相手と出くわしてから能力を発動させても遅い。
だからこそ、こうして先んじて発動させておくのだ。
それに、自分がどんな能力を使っているのかを観客に伝えておくことは、AAAにおいて戦術の一つでもある。
(……朝比奈がどこから来るかはわからないが、少なくとも、まっすぐこっちに向かってくるのは、ほぼ間違いないだろう)
風間は、電車の進行方向に向けて、歩き出した。
今風間が、電車の中で恐れるべきこと。
それは、背後からの奇襲である。
進行方向に向けて三号車から歩き出すということは、二号車に向かうということ、そしてその先には一号車がある。
つまり、一号車まで行き、運転席を背後にしてしまえば、気にするべきスペースが片方なくなるということだ。
「今目指すべきは、一号車だ」
仮に、鷹一が一号車から向かってくるとしても、正面から迎え撃つことができる。
(四号車から向かってきたとしても……現段階で、音もなく接近するほどの強い
そうして、風間は一号車を目指すことにした。
相手が、
風間は、
走る電車が切り裂く、風の音、その音の隙間の中で。
「
と、そんな鷹一の声が聞こえた。
「ッ――!?」
警戒している限り、鷹一が近寄った気配などなかった。
風間は驚きの勢いのまま、振り返る。
だが、そこに鷹一はいない。風の音源であろう、わずかに開いている窓だけが、そこにあった。
「なん、だ……?」
「こっちだよバーカッ!」
その瞬間、進行方向である一号車の方、背を向けてしまった方から、ガシャンッ! と甲高い音が響き、そして、次の瞬間には、後頭部に鈍い痛みが走っていた。
「ガッ……!?」
倒れそうになりながら、風間が背後を振り向くと、右足に赤いマフラーの端を巻き、ハイキックを放った右足を、
「さぁ、どんどん行くぜッ!」
鷹一は、右足に巻かれていたマフラーで、今度は右手を
そして、右拳前の、半身の構えで鷹一は風間に対して殴りかかった。
(あの構え、
鷹一の使う
鷹一の使っている
まず鷹一は、電車の屋根に出て、こっそりと風間の三号車へと向かった。
そして、硬化した
そうすることで、風間は背後にいると思い、後ろを向く。
その隙に奇襲を仕掛けるというのが、鷹一の作戦だったのだ。
確かに意表を突かれたが、それ以上の意味はない、はずだった。
しかしなぜか、風間は――。
いや、風間だけではない。
この戦いを見ている、AAAファンの多くが、その
風間は。鷹一の拳を、腕を振るって、弾く。
刃などないはずの剣が、自らの拳を叩き落とすその現象に、鷹一は驚き、すぐさまバックステップをして風間から距離を取った。
そして、改めて、自らの
「お前……正気か?」
風間の言葉は、鷹一、そして紅音以外の誰もが聞きたい言葉だった。
“
それはまさに、
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