サクラサク/サクラチル
「サクラサク/サクラチル」
この時期よく聞く言葉といえばこれだと思います。ニュース番組などでも地元の高校受験の合格発表の様子が映し出され、「受験生にサクラサク」とテロップが付いたり、「受験生たちにひと足早い春が訪れました……」などとアナウンスされたりしていますね。
なぜ受験に合格/不合格することを「サクラサク/サクラチル」などと表現するのかふと気になって調べてみたところ、これは元々「電文(電報文体)」と呼ばれる表現で、通信手段としての電信が確立した際に用いられたもののようです。
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内国電報の字種は永らくカタカナと一部の記号等に限られ(中略)、かつ電報料は濁点・半濁点・空白・句読点を含めた字数で課金されるため、通常の敬語は一般には用いられず、丁寧ながらも簡潔な文語体の文章をカナ化しかつ濁点・半濁点を省略するのが一般的であった(例としてお出でくださいを「オイデコウ」など)。また、単語そのものを略語化した電報略号や符丁も多用された。KDDによる外国電報では英数字のみが使え、電報料は字数課金であったため、内国電報と同様に電略や符丁も多用された。電報により送達される文章、又はその文体を電文といった。
Wikipedia「電報」
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%A0%B1
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いまや慣用句的に用いられている「サクラサク/サクラチル」ですが、確かにカタコトというか、畏まったような感じがしますからね。現代の言葉の感覚だと字面からでは意味がよく分からないものもあり、内々での合言葉のような感覚さえあります。
実際、軍事の電報で有名な真珠湾攻撃成功時の電報に「トラトラトラ」がありますが、これは「われ奇襲に成功せり」という意味があるのは皆さんおそらくご存知のとおり。同じく「ニイタカヤマノボレ」なら「攻撃開始」、「ツクバヤマハレ」なら「攻撃中止」の意味があります。
「サクラサク/サクラチル」に戻りますが、こういう電文調の文章は、個人的にはとりわけ戦前・戦中に特徴的な表現という印象を受けます。(でもどうして同じ字数の「コ゛ウカク/フコウカク」で送らずに「サクラサク/サクラチル」で送るようになったのかは分かりません。電報の通信主に合格だの不合格だの知られたくないのが一義的にはあったのかもしれませんが)
話は打って変わりまして、こうした電文調の文章を現代に当てはめると、どうやら言語障害のひとつとして受け止められてしまうようです。
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失文法
助詞や助動詞などの機能語が脱落し、名詞、動詞、形容詞などの内容語中心の発話になる症状をいいます。
例:「明日、学校、行きます」
しかし、日本では機能語だけが脱落するのはまれで、動詞も脱落し、名詞のみの『電文体』になることが多く、主にブローカ失語でこの症状はみられます。
例:「明日、学校」
STナビ「失語症の特徴的な言語症状 」https://stnavi.info/dysphagia/aphasia/post-129/
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日常的に例えば「○○どこ行った?」に「学校、忘れ物」などといった会話は当然有り得ますし、我々にも当然のように通じます。思えばこれもまた合言葉めいた会話なのでしょう。
「どこ行った?」に対する応答として、「場所、モノ」を答えるなら、それは「場所(に)モノ(を取りに行った)」と予想することが可能です。つまり問い掛け側の文脈に依存して動詞を省略することができる、というなかなかにハイコンテクストなやり取りが交わされるわけですね。
とはいえ、その頻度が高ければ前述のとおり言語能力に障害があるのではないかとも言えてしまいます。LINEでのやり取りなどちょくちょく単語1語でレスポンスしてしまったり、小説においてもできるだけ短く分かりやすい文に……と言われる時代ではありますが、やはりこうして主旨を一貫させた長文を書くことの重要さに改めて思い至りますね。
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