1匹!

「1匹!」


とある新聞の見出しに掲載されていた言葉です。


「何が1匹?」かというと、この季節の代表魚「ハタハタ」のことですね。今季初のハタハタ漁が始まり、漁師たちが帰ってきてカゴに移したハタハタに「1匹!」と叫んだようです。そこには「たった1匹……」とか「まだまだこれから」といった言外の感慨を感じます。


さて、そんなハタハタですが、じつは獲りすぎによる漁獲量の減少に悩まされてきた歴史があります。


ハタハタは冬の初めの今が旬で、メスは卵を抱えて岸に接近し、そこで卵を産みます。つまり旬のハタハタ漁というのは「産卵しに接岸するハタハタを獲る」ことを指すのです。そうなるとどうなるか、察しの良い方はすでにお気づきでしょうが、「産卵される卵が減る」ので必然的に「稚魚が減る」ということになります。


ハタハタ豊漁に味を占めていた漁師たちは漁獲量制限無しに獲りまくったあまりに、一時は県の海から絶滅寸前まで減ってしまったようです。そこから、「このままでは絶滅する」と危惧し厳しい漁獲量制限を開始、なんとか持ち直し、少なくともこの時期になればスーパーに並ぶようになりました。


これを「漁師の努力の賜物」と呼ぶ人もいるようですが、そもそも天然資源によって生活の糧を得るならばその量をきちんと管理するのも大切な業務なわけで、やはり当初から資源量を把握しておけば、燃料はじめ様々なものが高騰している今、厳しい漁獲量制限をしなくても良かったのではないかという本末転倒な側面があります。


地元紙の特集記事を見ると、最も多い漁獲量年は68年の2万223トン、そこから73-78年の約5年間にかけて急激に漁獲量が減り、今でも数百トンほどしか獲れない記録的な不漁が続いています。(参考:ハタハタよ、どこへ行った? 漁獲量変化「動くグラフ」で

https://www.sakigake.jp/news/article/20220208AK0045/)


ローマクラブが発した「成長の限界」の報告書が72年のことと考えると、時待たずしてハタハタが急激に獲れなくなってきた当時の人は相当焦ったと思います。


ハタハタに限らず、同様に絶滅が危惧される水産資源に「ニホンウナギ」があります。こちらは養殖があると言っても、天然の稚魚を獲って育てたものをスーパーに並べているに過ぎないので、じつは、やっていることはハタハタ漁と同じです。


さて、ハタハタ漁師は少なくとも「獲りすぎ」という過ちに気づき絶滅を避けながら生業として成立させ、かつ個体数を増やす努力を続けていますが、ウナギ漁師はどうでしょうか。


日本文化を守れといいながら、気づいたら「1匹!」にならないように、速やかに効果的な一手を打ったほうが良いのではないかと思うのですが……。

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