第071話 嫌な予感

 話を聞いたところ、最近俺たちが住んでいる街で妖の出現が頻繁に起こり、その対処に追われていたらしいのだが、それと時を同じくして住民たちの行方不明事件も頻発していたとのこと。


『▲●県の■●市で一昨日から二十三歳の女性が行方不明となっております……』

『▲●県の■●市で昨日未明から二十五歳の女性が行方不明となっております……』

『▲●県の■●市で昨日夕方から二十六歳の女性が行方不明となっております……』


 連日このような報道があったのを思い出す。


 どう考えても最近頻発する妖の事件と関連性がありそうなので、行方不明事件の原因究明にも人員を割きたかったのだが、あまりに妖の出現頻度が多くて手が回らないため、新人である俺達にもお鉢が回ってきたようだ。


 とはいえ、俺はともかくとして通常の新人陰陽師はほとんど役立たずのため、基本的に各地のパトロールをすることが主な任務だった。


 それにより、いち早く異変を察知して陰陽師協会に報告するのが俺達の仕事だ。


「よく来てくれたな、鬼一」

「こんにちは」


 俺は学校に連絡を入れて休みを取り、指示を受けるために陰陽師協会へとやってきた。


 受付に行ったらそのまま個室に通される。その部屋には田辺さんが待っていた。彼は俺が来るなりニヤリと笑う。


「はぁ……」


 以前と同じようにまた俺だけ別で呼び出されたようだ。俺は何やら嫌な予感がしてため息を吐いた。


「おいおい、俺の顔を見るなりガッカリするのは止めてくれよ」

「そりゃあそうなりますよ。なんだか嫌な予感がしますし」


 俺の顔を見るなり苦笑する田辺さんだが、俺が呆れ顔になってしまうのも無理はないだろう。絶対に面倒事に違いないんだから。


「まぁそう言うな。ちゃんと報酬は払っただろ?」

「父さんから数十億以上って聞いてますからね?」


 正当な報酬を払ったと言いたげな田辺さんだが、俺はきちんと釘を刺しておく。今後も良いように使われないようにするためには大事なことだ。


「げっ。そういえばお前の両親は陰陽師だったか」

「母さんは今は専業主婦なので元ですけどね」


 失敗したと言いたげな顔になる田辺さんの疑問に俺が頷いて肯定する。


「そうか。悪いな……俺個人ではアレが限界だったんだ」

「いえ、自分としてはあんなに貰えるとは思っていなかったので大丈夫ですよ。そのおかげでスマホを持てたので問題ありません。ありがとうございました」


 田辺さんがバツの悪そうな表情になったので、俺はきちん礼も言っておく。他の誰かだったらFランクの俺にあれだけの金額の報酬を振り込んでくれることはなかっただろうし、感謝しているのは間違いないのできちんと礼は伝える。


「はぁ……お前だけを呼んだことに対する意趣返しみたいなものか」

「まぁそんなところです。それで今日はどうしたんですか?」


 俺がまた他の人とは別の場所に呼ばれているという時点で何かあると思っていたので、釘を刺すついでに抗議を含めて少しだけ意地悪してみたわけだ。


 一通りの目的を果たせた俺は、今日ここに呼ばれた理由を尋ねる。


「お前にもこの行方不明事件の調査に加わって欲しくてな」

「え? 俺は新人ですよ? そんなの務まるわけないじゃないですか」


 理由を聞いた俺は、不思議そうに首を傾げながら至極当然の返事を返した。


 勿論魔術を使えば別だが、これ以上目立ちたくないし、俺に手伝えることがあるとは思えない。


「いや、お前はベテランの俺よりも探知能力にも優れている。何か分かるかもしれない。また報酬出すから頼むよ」


 なんだと!?


 報酬という言葉を聞いた俺は内心興味をそそられてしまう。


「い、いくらですか?」

「そうだな。前金でこれくらい出そう」


 俺が恐る恐る尋ねると、田辺さんは指を三本立てた。


「はぁ……三千円ですか?」

「そんなわけあるか。三十万だよ、三十万。それに事件への貢献によって後で成功報酬も渡すぞ」

「ほほう。仕方ありませんね、やってもいいですよ」


 三千円だと思ってがっかりした俺だったが、田辺さんが述べた金額に、一も二もなく仕事を受けることに決めた。


 三十万と言えば普通のサラリーマンの月給レベル。そして事件に貢献すればそれに応じてさらに追加報酬が貰えるという。これは受ける以外の選択肢はないだろう。


「変わり身が早いな」

「はははっ。行方不明者の安否が気になりますからね。当然協力しますよ」


 困惑気味の田辺さんだが、俺はにっこりと笑って答えた。


「まぁいい。それじゃあ引き受けてくれるってことでいいんだな?」

「はい。大丈夫です」

「分かった。それじゃあ、早速ウチの班の奴らと顔合わせするからついてきてくれ」

「了解です」


 田辺さんからの依頼を再び受けることになった俺は、彼の後を追って一般人が入れない陰陽師だけのエリアへと足を踏み入れた。


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