第072話 恒例の儀式
俺が案内されたのはとある一室。
室内に入ると一斉に俺に視線が集まる。室内は長机が二列にいくつも並べられていて、数十人の陰陽師服をきた人間が座っていた。刑事ドラマなどでよく見かける光景によく似ている。
おそらくこの人たちが行方不明事件の調査をする人員なのだろう。
「鬼一はあそこに座ってくれ」
「分かりました」
俺は田辺さんの指示を受けて空いてる席に腰を下ろす。
「諸君、良く集まってくれた。これから妖が関わっているであろう行方不明事件の調査に入る。班分けは事前に連絡しておいた通りだ。各々の班で聞き込みと霊的な探索を行う……」
田辺さんが簡単に挨拶をした後、今回の事件の概要と今後の方針を話し始める。
内容を聞く限り、ニュースの報道になっていない件も含めて十件以上の行方不明者が出ているらしい。それも成人の女性ばかり。一瞬変態か狂気殺人者の類の犯行かと思われたが、その女性たちは誰かについていった様子を目撃した人はおらず、忽然としていなくなったとのこと。
それと時を同じくしてこの一帯に雑魚ではあるが、各地で多数の妖が頻繁に出現するようになった。これを関連付けるなというのは酷な話だろう。
どちらが被害が大きくなるかと言えば圧倒的に後者であるし、数が数のため妖の討伐に人員の大多数をとられてしまう羽目になった。
その結果として、第二級と第三級だけでは人員が足りなくなってしまったわけだ。しかし、流石にこれ以上事態が悪化することを看過できなかった陰陽師協会は、俺達みたいな最底辺陰陽師も駆り出すことにしたのが今回の顛末のようだ。
「それでは後は各々の班に分かれ、班長の指示に従ってくれ。解散」
説明を終えたら、田辺さんの号令に従って決められた班ごとに部屋から出ていって室内には田辺さんの班員だけが残った。
その中には俺も含まれている。
「よーし、田辺班は集合」
残っていた面々は離れて座っていたので、田辺さんが最前列に集める。
田辺班は俺も含めて全員で六名。残りの三人とは初めて対面する。なぜ三人なのかと言えば、美玲もこの班に参加していたからだ。まさかとは思ったが、こいつも田辺班だとは思わなかった。
全員の前に立って話す田辺さんは俺に近づき、肩をポンポンと叩いて他の人に見せるように紹介を行う。
「今回はこの六人で調査に当たる。そしてこいつは鬼一秋水という。新人だが、すでに新人の域の力の持ち主ではない。俺が推薦してきてもらった。よろしくしてやってくれ」
目立ちたくはなかったが、班内でのコミュニケーションに必要だと思い、俺は田辺さんを止めることはしなかった。
「おいおい、田辺のおっさん、いつから陰陽師はガキの重りをする場所になったんだ?」
しかし、俺を歓迎していない人物がいた。
そいつはギザギザに尖った髪型に吊り目でいかにも素行の悪そうな男だった。年齢と俺と同じくらいで高校生か大学生くらいだと思う。
「だから言っただろう。鬼一は規格外だ。足手まといになどならないぞ」
「はんっ。どこが強そうなんだよ。どう見ても雑魚だろうが。そんなペットも連れてるしよぉ」
「ウゥウウウウウウウウッ」
田辺さんの言葉も聞かず、俺の肩に乗っているキュウと共に俺をバカにするギザギザ。その言葉を理解しているキュウはこいつに威嚇する。
妖力を漏らしていない辺り。きちんと弁えている。
俺はともかくキュウをバカにするやつは許せんな。
「じゃあ、俺と勝負しましょうよ」
「なんだと!?」
俺がその喧嘩買って舐めたことを言ったら、案の定こいつは俺を強い視線で睨みつけてきた。
「あれ? 怖いんですか? 俺に負けるのが?」
「上等だ!! ぶっ殺してやるよ!! いいよな、おっさん!!」
煽り耐性ゼロどころかマイナスくらいの勢いで俺の挑発に乗るギザギザ。
「はぁ……仕方あるまい。第三演習場でやればいい。ただし、大怪我や殺すのは当然なしの模擬戦だ。分かったな?」
「「はい(おう)」」
意気込むギザギザをみて止まらないと思ったのか、田辺さんは呆れてため息を吐いた後で俺たちの勝負を許可した。
何故か田辺さんは俺の方を向いて唖然としていたが、気のせいだよな。
俺たちは全員で第三演習場に移動した。
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