第023話 理不尽の体現者(別視点)

■土蜘蛛 Side


 ワシは一時的に自身の能力を全て三倍に高める術を使った。


 体の周りを紫の強大な妖力が包みこみ、今ならどんなことでも出来るという全能感が湧き起こる。この術は強力だが、長い期間まともに動けなくなるため、できれば使うことを避けたかった。


 しかし、目の前の霊力すら感じさせないこやつは、ワシを圧倒しおった。先ほどは侮っていたが、ワシに気付かれないうちに小娘を奪い返したり、ワシおの攻撃を防いだりと圧倒的強者なのは間違いない。


 そうワシの直感が言っていた。


 そんな相手からワシが生き延びるためにはこの術を使用するしかなかった。


「いくぞ!!はぁ!!」


 先ほどまでのワシとは比べるのもおこがましい程のスピードで小僧に攻撃をしかけた。


「あらよっと」


 しかし、あっさりと躱されてしまった。それも変な掛け声を上げる余裕すらある状態で。


 バカな!?


 ワシは思わず心の中で叫んでいた。しかし、それを顔に出すわけにはいかない。ワシは躱しきれないほどの突きの弾幕を張る。


 それでも小僧はまるで紙が舞うようにヒラリヒラリとワシの攻撃を躱し続ける。


 ありえん!! 三倍、三倍だぞ!?


 ワシは目の前の現実があまりに受け入れがたかった。小娘やこの場所で最も力のあるあの眼鏡の男さえ、通常のワシを捉えられないのに、その三倍速でも相手を捉えられないというは悪夢以外の何物でもない。


「おいおいどうした?こんなものか?」


 目の前の男はガッカリしたと言いたげにワシに言う。


「こんなものではないわ!!」


 ワシは自分がバカにされていることを認めるわけにはいかず、全力を振りぼって攻撃を放つ。


 しかし、それさえも簡単に避けられてしまった。


「はっ!!」

「ぐはぁ!?」


 攻撃に夢中になっていたワシは相手が攻撃してくることを忘れてしまい、急に繰り出された拳を交わすことが出来ず受けてしまう。


 しかもそのスピードは速くなったワシさえも凌駕していた。


「舐めるな!!」

「ひょい」

「ぐぺっ」


 ワシはダメージを受けながらも反撃するが、簡単によけられた上に更なる追撃をもらってしまう。


 なんなんだこいつは……一体何者なのだ……!?


 こやつは陰陽師見習いなどと言っていたがそんな訳がない。


 ただの陰陽師見習いにワシがこれほど良いようにやられるわけがないからだ。それはこれまで戦った陰陽師から分かっている。


 それなのに、ワシはこの陰陽師見習いだという小僧の攻撃を避けることが出来ずにいた。


「はっ」

「ぐはっ」


「ふっ」

「ぐふっ」


「ほっ」

「ぐほっ」


 ワシは何とかこやつの攻撃を避けて隙を見て攻撃を加えようとするが、そのどれもが失敗に終わり、全て返り討ちにされてしまった。


 気付けばワシはボロボロになっていた。


「はぁ……はぁ……」


 ワシは全身バラバラになりそうな痛みを堪えてなんとか体を起こして奴を睨みつける。


 なんとかこやつの隙をついて逃げ、生き延びるのだ。もうそれしかない。そして力を付けた時にまた今回のように復讐してやる。


「あ、一つ訂正させてもらうけどな」


 ワシがそんな未来を夢想していると、ふと思い出したように嘯く小僧。そこにはいたずらっ子のように無邪気が笑顔があった。


「……」


 ワシはその言葉を無視する。


「言い忘れてたんだけど、実は俺って実は(魔)術特化型なんだよね」


 しかし、小僧はワシの反応などお構いなしでニッコリと笑って答えた。その表情には全く嘘を言っているような気配が見えず、本気で言っていることが分かる。


「なん……だと……」


 ワシの心はポッキリと折れてしまった。

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