第014話 ペロ・・・これは危機の予感!!

「非戦闘員の方はこちらから避難してください!!」

「こっち!!こっちですよ!!」


 入り口の方に向かうと、別方向に案内する陰陽師協会職員たち。俺は彼らの案内に従い、非常口を目指して走る。


 非常口への通路には採光するための窓がなく、室内をオレンジ色の電灯が照らしていて少し暗い。ただ、非常用の白い光が点々と俺達を導いてくれているので迷うことはなかった。


 俺の他にも非戦闘員や俺と同じ陰陽師見習いがいて、我先にと逃げていく。


 こんな状況になっておいて言うのもあれだけど、これで俺が太極属性だという話は皆の記憶から薄れてあやふやになるだろう。それによって俺の平穏な生活は守られるはずだ。


 ふぅ……本当に間一髪なところだった。あのままだったら太極属性ということで、どこか別の陰陽師の家に捕まり、研究材料とか種馬扱いされるところだったかもしれない。


 同じように逃げている人達の背を追っていると、外の白い光が奥に見える。


 どうやら出口らしい。


 皆一心不乱に外に向かって走っていく。


「きゃぁああああ!!」


 しかし、このまま逃げることは難しいようだ。外から人の悲鳴が聞こえた。


 俺がスピードを上げて壁を駆け抜けるようにして外に出ると、その悲鳴の主が、三匹の一メートルを超える蜘蛛に囲まれていた。その後ろで他の避難者が恐怖でその様子を見ている。


 非戦闘員ならそれも仕方がない。


「なんだ……ジャイアントスパイダーか……」


 しかし、俺は見た瞬間に初心者冒険者が初めての森で戦うことになる蜘蛛のモンスターを思い出した。図体はデカいが、そんなに強くなかったはずだ。


 避難と言うからさぞかし強い妖を想像していたんだが、美玲が言っていたように弱い妖が頻繁に襲ってくるんだろうな。


「だ、誰か助けて!!」


 俺が大蜘蛛に拍子抜けしていたら、女性が体を硬直させながら助けを求める声が聞こえ、俺の思考を現実に引き戻す。


「ウインドカッター」

「「「キシャアアアアアッ!?」」」


 俺はすぐに魔術名を唱えた。不可視の風の刃が放出されて三匹の蜘蛛を切り刻み、蜘蛛だった物は細切れに変わる。


『へ?』


 囲まれた人達は助かったのに、何故か呆けた声を出した。


「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます。お強いんですね?陰陽師の方ですか?」


 囲まれていた人に近寄って声を掛けたら、慌てて俺の方に向き直り、頭を下げて俺の職業を聞いてくる。


「いえ、ただの見習いです」

「そ、そうなんですか?まだ見習いなのに凄いですね」

「あんな雑魚なら見習いでも倒せますよ」

「そ、そうなんですね……」


 何故か見習いだと言ったら驚かれてしまった。


 どうしたんだろうか。

 そんなに驚くほどの事でもないと思うんだが。


 俺は相手の様子を不思議に思う。


 しかし、ここにいればまた大蜘蛛がやってくるかもしれない。非戦闘員ではほとんど勝ち目はない。だから出来るだけ避難してくれた方がいい。


「そんなことよりも他の蜘蛛が寄ってくるかもしれないので逃げましょう」

「そ、そうですね」

「それじゃあ行きましょう」

「はい」


 俺は頭を切り替えて避難を促すと、彼女は頷いた。


 他の避難者とともに俺達はその場を離れようとする。


―ドォオオオオオオンッ


 しかし、その瞬間、後ろですさまじい音が爆発した。後ろを振り返れば、陰陽師協会の奥の方で濛々と煙が上がっている。


 嫌な予感がする。


「すみません、他の人と一緒に逃げてください」

「あ、あなたは?」

「ちょっと中の様子を見てきます」


 気になった俺は陰陽師協会の中に戻ることにする。


「あっ」


 "サーチ"の魔法で避難している人達の進行方向にいる敵意ある気配を探り、その全てに雷を落としてから踵を返し、爆発音の許を目指した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る