第013話 つまりいつでも絶〇時間
「どういうことなんだ?」
もうやらかしてしまったのは仕方がないので開き直って説明を求めた。
「コホンッ……私も信じられないんだけど説明しておくわ」
「頼む」
俺の声で我に返って咳払いをした美玲が、さっきの現象について説明してくれるというのでそのまま頷いて促す。
「さっきの儀式の反応は私がやったように火属性なら焚火を一瞬で燃やして土を発生させ、金属を溶かすの。それと同じように他の属性にも固有の反応がある。木属性なら火を燃え上がらせ、土をカラカラに干上がらせる。土属性なら土から金属を生み出し、水を濁らせる。金属性なら水を生み出し、苗が切断される。水属性なら木を成長させ、火が消える、という具合にね」
「なるほど」
各属性の判別方法の説明に、俺は納得するように相槌を打った。
説明が中々分かりやすい。こいつ優秀だけあって案外教えるの上手いんだな。
俺は場違いな事を考えながら話を聞く。
「でもあんたは相克反応を引き起こさず、相生反応だけを引き起こした。相克はそれぞれの属性の後者の反応のことで、相生は前者の反応ね」
「うん」
あの反応にはそういう意味があったのか。
俺は感心しながら頷いた。
「その反応を引き起こす属性がこの五つの他に存在すると言われているわ。それが太極属性よ」
「でも別に何も凄くなくないか?」
ただ、まさかさっき言っていた五つの属性の他に属性があるとは思わなかったが、それだけでは凄さが分からない。
だから彼女に更なる説明を求めた。
「何を言ってるの?とんでもない属性よ。基本的に自分の霊力属性が百%の力を引き出せるとすれば、隣り合う二つの属性の内、自分の属性の前の属性が大体六十%くらい、後の属性が八十%くらい扱えるようになる。そしてその先の属性が四十%くらいで、相反する属性は使用できない。私なら火が百%。木が六十%。土が八十%。金が四十%、水属性は〇%という具合にね。ただ、その法則には例外があって、それが太極属性と呼ばれる属性なの。その属性はあらゆる属性の力を百%引き出して自在に操ることが出来ると言われているの」
「言われている?」
美玲が属性について詳しく説明してくれた後、先程から気になった言い方の部分を問うように繰り返した。
それじゃあまるでそんな人はいないみたいじゃないか……。
俺は嫌な予感を抱えながらその先の話を聞く。
「そう。それはおとぎ話に出てくる伝説の存在。今だかつて誰一人としてその属性だった人は誰もいない。歴代最強と言われる安倍晴明様でもね」
「マジ……?」
俺は続いた美玲の言葉を聞いて思わず問い返していた。
いやいやまさかそんなことない……よな……?
あっちじゃ俺の周りにいた奴らは皆全属性の適性普通に持ってたぞ!?
「大マジよ」
嘘をついている様子はなさそうな美玲。
「……」
俺は言葉を失うしかなかった。
「痛い……」
ほっぺをつねって確かめてみたが、どうやらこれは現実のようだった。
「も、もう一度やってみないか?」
「やっても結果は変わらないわよ。儀式にミスはないのは確認してるから」
俺が霊力測定のようにもう一度やろうとするが、美玲が首を振る。
「そ、そうか……」
俺は狼狽えて言葉を失う他ない。
くっ……もう一回やれば霊力測定と同じように結果を変えることが出来るのに封じられてしまった……このままでは俺の平穏陰陽師ライフが……。
「あんた一体――」
「はぁ……はぁ……緊急です!!妖の群れがこちらに向かっています!!」
俺がどうにか解決策を模索する中、美玲が何かを言おうとするが、一人の男が焦った様子で演習場にやってきて大声で叫び、彼女の言葉を遮った。
「なんですって!?」
彼女は一瞬前の自分の発言も忘れ、男の報告に驚愕する。他の陰陽師も同じようで、演習場の雰囲気がガラリと変わり、彼に注目が集まってくれた。
よしっ!!
緊急事態で不謹慎なのは分かっているが、さっきまでの空気をぶち壊してくれた彼には感謝しかない。
「陰陽師の方は集まってください!!」
「分かりました!!」
彼の言葉で陰陽師たちが返事をして生徒そっちのけで男についていく。
「あんたは避難しなさい!!」
演習場から出ようとした美玲が立ち止まって振り返り、俺に命令する。
「いや、俺も行った方がいいんじゃ?」
「足手纏いよ!!それにこれくらい日常茶飯事よ。分かったわね」
「はいはい、了解」
俺でも出来ることがあると思ったんだが、キッパリと否定されてしまった以上避難した方がいいだろう。
俺は陰陽師協会の入り口に向かって走った。
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