第015話 想定外の四重奏≪カルテット≫(別視点)

■葛城美玲 Side


 シュウと別れ、協会の外の森と隣接している開けた場所にやってきた。


 そこには父が不在の間ここを任されている副支部長と、ここに常駐しているか、偶然訪れていた陰陽師たちが集まっている。


 その中の数十人の術士達が数百匹を超える蜘蛛の群れを前に戦っていた。


「副支部長!!」

「美玲様。来ていただけましたか」


 私が副支部長に声を掛けたら、彼は包み込むような笑顔で出迎えてくれる。


 副支部長は、白髪の混じった暗めの緑色の髪の毛を後ろで結い、小さな丸眼鏡をかけていて、常に優しい笑みを浮かべているおじさんだ。


 父と古くから付き合いがあったため昔から知っているし、よく世話してもらっていた。


「当然です。状況はどうなっていますか?」

「はい。現在分かっているのは、見れば分かりますが、ここを襲ってきたのは大蜘蛛の妖だということですね。しかもこれ程の数の大蜘蛛が組織だって動いていることから、大蜘蛛の背後には支配者である土蜘蛛がいると思われます」

「土蜘蛛ですか!?第一級妖魔の!?」


 副支部長から聞かされた状況は私が悪いものだった。


 数十匹程度のそれほどランクの高くないモンスターの襲撃はシュウに言った通り日常的によくあること。


 だけど、街規模で被害を及ぼす程の災害である第一級の強力な妖が、数百匹を超える大規模な群れを率いて陰陽師協会に喧嘩を売ってくるという事例はほとんどない。


 おそらく探知の及ばないどこかで力を蓄え、好機と見て攻勢に出たのだろう。


「はい。その一級妖魔の土蜘蛛ですね」

「全く父や他の一級陰陽師が何人かいない時に……」


 しかも父とその部下である一級陰陽師が出張でたまたまこの地を離れていた。さらに、今日は経験の浅い陰陽師ばかりが出勤していて、戦力がいつもよりかなり乏しい状態だった。


 この場で一級陰陽師なのは副支部長だけ。彼であれば土蜘蛛と一対一なら勝てるはずだ。しかし、ここには土蜘蛛以外にも多くの群れが居る。彼以外でその群れを押さえきれる力のない今の状態では、いくら一級陰陽師である彼が居ても厳しいと言わざるを得ない。


 特級陰陽師である父がいれば、後れをとることなどなかったでしょうに。


「それから戦況ですが、大蜘蛛の数がかなり多く、はっきり言って芳しくないですね。他の支部に救援の連絡をしていますが、ここに来るまでに時間がかかるでしょう。そろそろ抑えきれなくなりそうです。協会内での籠城戦に移るしかないですね。建物には結界がありますから」


 もう抑えきれなくなりそうならすぐに籠城に切り替えたほうがいい。


「そうですか。それでは誰かが命を落とす前に移動しましょう」

「分かりました」


 それは副支部長も同じ考えのようですぐに全員を撤退させ、協会内から遠距離攻撃で迎撃することになった。


―ドォオオオオオオオオンッ


 しかし、数メートルを超えるたった一匹の巨大な蜘蛛、土蜘蛛によって


 強力な結界が土蜘蛛の一撃で壊わされてしまったのだ。それと同時に建物の一部が崩壊し、内部に大量の大蜘蛛に侵入されてしまった。


「くっくっく。あやつの言う通りであったわ。あっさりと結界が壊れよった。便利なものよ」


 その後ろから土蜘蛛が何やら面白そうに笑いながら協会内に踏み込んできた。


 その姿は禍々しく恐ろしいモノだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る