第008話 幸せを阻む者(第三者視点)

 一方その頃、とある存在達が森の中を疾走していた。


 目指す先に見えてきたのは切り立った崖にぽっかりと口を開ける大きな穴。そのまま中に入り、入り組んだ内部を駆け抜けて奥に進んでいく。その先には広い空間が広がっていた。


 紫色の炎が壁にいくつか街灯のように燃えていて、真っ暗なはずの洞窟内を怪しく照らしている。


「戻ったか……」

「「「「「キャシャアッ」」」」」


 そのドーム型の空間の一番奥には巨大な、体高三メートルはありそうな蜘蛛が鎮座していた。その頭は鬼のように凶悪で、人々が見れば恐怖で震えあがるだろう。


 大蜘蛛が戻ってきた配下に対して声を掛けると、配下である小さな蜘蛛―それでも体長一メートル以上ある―が人には理解できない声で鳴く。


「そうか。逃げられたか。まぁよい。無事に陰陽師を撃退できた。大した成果だ」


 配下蜘蛛の内の一匹が語ったのは、陰陽師と思しき恰好をした二人組を逃がしてしまったということだ。


 しかし、配下の蜘蛛の群れが陰陽師に通用するのが分かったことは大蜘蛛にとっては朗報であった。


 ただ、彼らも無傷とはいかずに同胞を何匹か殺されてしまった。それでも陰陽師だと分かる相手に手傷を負わせた。それは彼らの計画にとって大きな成果であった。


 取り逃がしたその二人というのは、秋水の父と弟の光明のことだ。


 彼らはまんまと光明をつり出して致命的なダメージを与えるために誘導し、止めを刺そうとしたが、直前で秋水の父が割り込まれてしまった。


 それだけにとどまらず、秋水の父は大怪我を負いながらも反撃をして彼らの仲間を薙ぎ払ったのだ。


 そして手傷を負った秋水の父はそれ以上攻撃してくるなら刺し違えても全員殺す。


 そんな気迫を蜘蛛達に放った。


 彼らは同胞をそれなりに失っていたこともあり、それ以上の追撃を止めて撤退したのであった。


 他のグループの配下達も続々と集まってきて陰陽師との対戦結果の報告を上げる。それは彼らにとって満足出来る内容だった。


「キシャァアッ」

「うむ。そろそろいい頃合いだろう」


 それらを聞いていた配下が「作戦を実行しますか」と尋ねると、大蜘蛛は鷹揚に頷いてみせた。


「「「「「キャシャアッ」」」」」


 配下達は主である大蜘蛛の言葉を聞いて歓喜する。


 なぜならついに悲願が達成されるからだ。


「そうだ。ワシの傷は癒え、力も蓄えた。明日あの忌々しい陰陽師共に復讐を果たす。ワシらを痛めつけてくれた報いをくれてやらねばなるまい。すぐに戦の準備をせよ」

「「「「「キャシャアッ」」」」」


 大蜘蛛の号令によって配下の蜘蛛たちがせわしなく動き出す。


 彼らの計画とは以前自分が陰陽師に殺されかけた復讐だった。


 配下達の報告を聞いた大蜘蛛は、自分たちの力が陰陽師に復讐するのに十分な程になったと確信し、計画を実行に移すことにしたのである。


「この傷の借りは返してやるぞ、陰陽師ども」


 大蜘蛛は自身の背中に着けられた古傷を変幻自在に動くその足で撫でながら、何もない空間を睨みつける。


 その視線は陰陽師協会の方角を向いていた。

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