第009話 中央値なら目立たないという完璧な発想
次の日。
今日は土曜日だったので早速陰陽師協会に父さんに連れてきてもらった。
「陰陽師協会……懐かしいな」
俺は目の前にある建物を見て感慨に耽る。
建物は平安時代の貴族の屋敷みたいな造りになっていて、ウチと違って見た目も綺麗で、滅茶苦茶立派な建造物だ。状態保存の魔法のようなものがかかっているのかもしれない。
「そういえば連れてきたのは最初の一回だけでしたね」
同じように立ち止まる父さんの言う通り、ここに来たのは霊力測定の時以来だ。あの時は周りにバカにされ、父さんも付き合いのある他の陰陽師の家の人に色々言われて凄く迷惑をかけてしまった。
「悪いな父さん。不出来な息子で」
「何を言ってるんですか。そんな訳ないでしょう。秋水君は自慢の息子です。それに後天的にとはいえ霊力にも目覚めたじゃないですか」
その時のことを思い出して父さんに謝罪したら、憤慨して諭した後、俺が力に目覚めたことを自分のことのように喜び、ニッコリと微笑んでくれた。
こんな俺でも愛情をもって育ててくれた両親には感謝しかない。
「ま、まぁそうなんだけど……」
ただ……言えない……。
霊力じゃないなんて……使えるのは魔力だなんて言えない……。
「それじゃあ行きましょう」
「うん」
心の中で葛藤していたら、父さんに促され、陰陽師協会の中に足を踏み入れることになった。
屋内は役所を平安風にしたような空間。職員も巫女服や陰陽師服を着ていて一瞬タイムスリップでもしたかのような錯覚を受ける。
俺たちは受付に向かい、入会手続きを行う。
「それでは霊力測定を行います。こちらの板の上に手を置いてもらえますか?」
その途中で改めて力に覚醒しているかと確かめるため、霊力を測ることになった。
しかし、このまま手を載せればゼロになるのは目に見えている。
"アナライズ"
だから俺は無詠唱で魔法を使用した。
この魔法は対象の構造や機能を解析することが出来る魔法だ。これによりどのようにして霊力を判定し、どのような反応を返すのか分かる。当然どうすればどのくらい数値になるかも判明した。
なるほどな。
最低は〇で最大値は九九九九か。
普通の陰陽師がどのくらいか分からないけど、中央値である五〇〇〇くらいなら目立つことはないだろう。
魔術師ギルドの魔力測定も半分なら普通だからな。
完璧すぎる発想だ。
「分かりました」
解析が終わった俺は手を置いて魔力でその板を五〇〇〇になるように操作した。
「え!? え!?」
しかし、ぐんぐん上がる数値に受付嬢は今まで見たことないみたいな反応をする。
ヤバい……俺、なんかやってしまったか……?
受付嬢の反応を見て、俺は内心焦る。
「五〇〇〇!? 歴代最強の陰陽師と呼ばれる安倍晴明様でも一〇〇〇だと伝わっているのに……五〇〇〇!?」
止まった数値を見て受付嬢が悲鳴のように口走った。当然周りもその声を聞いていてザワザワと騒ぎだす。
はぁ!? 最強が一〇〇〇!? そんなバカな!?
それならなんで最高値が九九九九なんだよ!!
俺は思わず心の中で叫んだ。
くそっ。このままでは俺の平穏陰陽師ライフが水泡に帰してしまう。
一体どうすれば……。
「も、もう一度計測してもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。お願いします」
どうにか誤魔化そうと考えていたら、まさかの受付嬢からの助け舟。もう一度測ってくれるという。
良かった!!これでまだどうにか挽回できる。
流石に一〇分の一の五〇〇なら大丈夫だろう。
歴代最強の半分だしな。
俺はすぐに五〇〇になるように弄った。
「五〇〇……良かった……」
「間違いだったみたいですね」
二回目の計測で五〇〇と出て先程の計測が間違いだと判断してくれた受付嬢は、ホッと安堵の息をついた。俺はニッコリと笑って同意するように話しかける。
さっきのが計測間違いだと聞いて集まっていた野次馬も俺達の傍から離れていった。
「そうですね。それでもかなり高い数値ですよ。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
しかし、五〇〇でも高い数値と聞いて、俺は苦笑いを浮かべて礼を述べるしかできなかった。
こうして俺の普通の陰陽師への道は辛うじて繋がることになった。
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