第010話 青天の霹靂

「はぁ……」


 あぶねぇ……危うく俺の普通の陰陽師計画が最初で躓くところだった……。


 俺はロビーの椅子に腰を下ろして安堵し、手の中にある物を見つめる。


 手続き後に受け取ったのは、冒険者ギルドでもらえるギルドカードによく似た協会員証だ。そこには氏名年齢の他にランクとして陰陽師見習いという文字が記載されていた。


 これから講習を受けて試験に合格したら晴れて正式な陰陽師になり、正式な協会員証を貰えるらしい。それまでは基本的に講習を受けるためだけの身分証明証みたいなものだ。


 ひとまずこれで講習を受けることが出来る。


「秋水君、何かしましたね?」


 不意に隣に腰かけた父さんが俺に小声で問いかけた。


―ギクッ


 その質問に俺の鼓動が跳ね上がる。


「な、何のことか分からないなぁ?」

「はぁ……あんなに都合よく数値が変わるわけないでしょう」


 俺が誤魔化しながら答えたら、父さんは呆れるように様にため息を吐いた。


 父さんは霊力はあるけど魔力はない。

 俺がやったとは分からないはずだ。

 それなのに一体なぜ……。


「一体なぜ分かるのか? そんな顔をしていますね?」

「うっ」


 父さんに図星を突かれて俺は狼狽えてしまう。


「私は生まれた時からあなたを見ているんですよ? そのくらい見てれば分かります」

「はぁ……さいですか……」


 俺は降参するように肩を落とす。


「昨日の事といい。ここでは深くは聞きませんよ」

「いいのか?」


 詳しく聞かないと聞いて疑問に思う俺。


「人の目と耳が沢山ありますからね。ただし、家に帰ったらしっかり話してもらいますよ」

「はい……」


 しかし、案の定帰ってから隠していることを話す約束をさせられた。


 いい機会だし、信じてもらえなくても一度家族には俺のことをちゃんと話しておくべきだろう。


 それにしても、やっぱり俺はこの父親には叶わないな。


 アルフレッドだった頃の俺は親がいなかった。いわゆる孤児って奴だ。それから頑張っていたらいつ間にか大賢者などと呼ばれるようになり、気付けば孤独になっていた。


 だからか、こんな親の愛情が困惑する反面、とても心地の良くてアルフレッドとしての俺が喜んでいるのを感じる。


―ピンポンパンポーンッ


 父さんと話していたら、館内放送を告げるチャイムが鳴った。


『陰陽術初心者講習をご予約された鬼一秋水様。第三演習場に御集合ください。繰り返します……』


 女性の声で俺の名前が読み上げられ、講習が始まる旨が告げられた。


「それじゃあ、行ってくるよ父さん」

「はい、頑張ってきてくださいね。帰りは母さんに迎えに来てもらってください」

「勿論だよ。分かった」


 父さんに別れを告げ、館内表示に従って第三演習場という場所に移動した。


 そこは演習場という名の通り、周りを頑丈そうな壁に囲まれた平地で、自分以外の人もいて、それぞれ一対一で陰陽術を教わっているようだった。


 何やら紙の札を操っていたり、木や水に手を翳している光景が見受けられる。ああやってマンツーマンで教えてもらえるのか、それはありがたい。


 俺もすぐに先生を探すため辺りをきょろきょろと見回すと、一人だけ相手のいない人物が俺に背を向けて腕を組んで立っている。


 どうやらあの人が俺の指導を担当してくれる相手のようだ。


 その人が先生だと思って意気揚々と近づいていったら、その正体が判明して俺は思わず声を漏らしてしまう。


「え?」

「はぁ!?」


 相手も声に気付いて俺の方を振り返るなり、その端正な顔を驚愕で歪ませ、素っ頓狂な声を出した。


 何故ならその相手は知ってる人物だったからだ。


 そこで待っていたのは、真っ赤な髪をハーフアップにまとめ上げている、疎遠になった俺の幼馴染、葛城美玲であった。


 それは青天の霹靂と言わざるを得なかった。

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