第19話 万馬券で人生逆転!

 それ泥沼にはまるやつだろ、と困惑する叔父さんを引きづって場外馬券売り場にやってきた。借金をギャンブルで返そうなどとは正気の人間がやることではないが、俺は今日の結果だけは覚えていたのだ。ダビスタプレイヤーの俺はGⅠレースの競馬中継は時々を見ていた。今日はGⅠレースの日であり、その次の第12レースで大変珍しい単勝の万馬券が出たのである。それに全財産突っ込むのだ。

 GⅠも買えればよかったのだが、締め切りに間に合わなかった。思いの外時間がなかったのでかなり焦っていた。うだうだと言う叔父さんにマークシートとともに俺の全財産を叩きつける。幸いにして2万円以上はある。

「こんなの使えねえよ」

 いいから早くしろって。

「早く買ってきてよ。金持ってるならそれも全部!」

 まだ抱えている段ボールをひったくって叔父さんを蹴とばす・・・のは辛うじて堪えた。

「どうなっても知らねえからな!」

 ずかずかと馬券売り場に向かう叔父さんを見送る。それにしてもこの頃の馬券売り場というのは酷い雰囲気である。21年後には綺麗に整備されているが、今はまだ汚くて煤けていて淀んでいた。ヤニとアルコールと吐しゃ物と体臭の混じった空気。その発生源たるおっさんが呻いている。

「絶対来る筈やったんや。なんでや。もう金あらへんがな。首釣らなあかんがな・・・」

 風物詩のようなものなので、フフフと微笑ましくみていたが、思えば俺も同じような事をしているのだ。急に不安になる。

「買ってきたぞ!」

 叔父さんは馬券を二枚もっていた。俺が渡した分と、追加で自分のお金も突っ込んだらしい。いくら買ったんだと思って見ると、追加分は3000円だった。少ねーな。

 しかしちょっと安心している俺がいる。というのもバタフライエフェクトというものを思い出したからだ。蝶の羽ばたきほどの出来事が、大きく結果を変えてしまうという考え方である。

 確かに俺の記憶ではここで万馬券が来る。しかしである。ここには本来存在していなかった俺がいる。そしてわずかな金額ではあるが馬券を買ってしまっている。

「出走したぞ」

 それだけではない。今朝、この千載一遇の機会に馬券が買えないと自棄になってインターネット掲示板でスレッドを立てたりしていたのだ。



【未来人】2022年から来たんだけどなんか質問ある?【タイムリープ】

 1 11:01:52

 今日の12レースは単勝万馬券くるで。


 2 11:10:12

 >>2ゲット


 3 11:18:34

 >>1

 氏ね


 4 11:50:08

 10000000000000000000万枚買った。


 5 12:38:41

 糸冬了



 スレッドは速攻で落ちてしょっぱい気持ちになったが、こういうことが過去を変えないとは言い切れない。要するにやっぱり万馬券は来ないこともあり得るのではないかと思うのだ。

「おい、もう最終コーナーだぞ」

 現実逃避していても結果はすぐにやってくる。たかが2万円だが、今の俺の全財産なのだ。それにこれを外すと、叔父さんという使いやすい駒を得る機会は永遠に失われるであろう。祈るような気持ちで、こい!こい!と叫んでいた。



「うおおおおおおお。マジで来た!!嘘だろ!!マジかよ!!」

 叔父さんは興奮しすぎてマジかよを連呼していたが俺も負けてはいない。叔父さんのスウェットを掴んで振り回す手が止まらない。この野郎!手間かけさせやがってこの野郎!

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