第18話 サラ金で200万も借りるとわりと詰む
あれから叔父さんとは会っていない。流石に気まずくなってしまった。金策が行き詰って大変憂鬱な昼下がりである。
こういう時は無心で作業できるゲームがよい。しかしこの時代は周回ゲーはあまり存在していない。そういわけでダービースタリオンで延々と種付けをする作業に勤しんでいた。
このダビスタは競走馬育成シミュレーションゲームだ。これにそこそこハマっていたので競馬の中継は時々観ていた。大きいレースの結果は覚えているものもある。しかし、叔父さんがいなければ馬券を買うことはできない。特に今日は大事なレースがあったのだが・・・
悶々としていたが、この種付け作業も少し悶々とするものであった。生まれた仔馬に名前をつけないといけないのだが、その数も膨大であるため、名づけはかなり適当なものだった。「アアアカイザー」や「アッアアアー」などの名前をつけていると呼び鈴が鳴った。
ドアを開けると変わり果てた叔父さんが立っていた。いや、そうはいっても以前と比べるとキチンとした身なりではあったのだ。髪をジェルで固め、太いストライプのタイトなスーツを着ている。胡散臭いビジネスマンスタイルだ。個人的には好みではないが、まあそこはいい。問題はニューカキンのダンボールを抱えていることである。
「どうしたの?叔父さん」
さり気なさを装って問うた。
「いや、あのさ。姉さんいるか?」
切羽詰まった顔の叔父さんが言った。養分が養分補給に来たのだろう。幸い母は留守である。
「お母さんは出かけてるよ」
「そっか・・・」
手に一杯の洗剤やら健康食品を売りに来たのだ。しかし、流石にそれはやらせられないぜ。
「借金の返済、厳しいの?」
「え?」
「借りたんでしょ、サラ金で。それでその洗剤を大量に買ったわけだ」
ニューカキンの段ボールを指さしてやる。
「なんでそんな事わかるんだ」
「だから言ってるじゃない。俺は中身は大人なんだって。それでいくら借りたの?300万ぐらい?」
多めに言ってみる。
「いや、そんなに借りてねーよ。200万ぐらいだって」
え、100万ぐらいだと思ってたのに。借りすぎじゃない?というかそんなに借りられちゃうもんなんだね。なんてこった。
「ヤバくない?返せるの?」
200万ぐらいいけんじゃね?と思ってしまうところだが、この頃はまだグレーゾーン金利が有効であり、廃止は2010年なのだ。アホみたいに高い金利、具体的には年率30%ほどで借りている可能性がある。
ちなみに、この時代に金利を制限する法律は2種類ある。利息制限法と出資法だ。利息制限法上の金利の上限は20%ぐらいだが、出資法上は30%ぐらいで、矛盾する規制が共存していたことになる。この差がグレーゾーンと呼ばれていて、当然、現実的には上限30%で貸し出されていた。
借りた200万円の金利は年に60万ほどになるわけだ。細かい計算は置いておくが、利息分だけでも毎月5万円を返さなくてはならない。フリーターであろう叔父さんには大変な負担なのである。だから、
「商品を売ればお金になるから・・・」
というのだ。
「でも、それやったら絶縁されちゃうかもしれないよ。お情けでいくらかは買ってもらえるかもだけど」
「・・・」
無言の叔父さん。いやしかしマズイ借金を背負った事に早く気づけて良かったよ。それに今日というのがいい。今日ウチに来たのは僥倖だった。
「今なら借金を一発で返せるチャンスがあるよ。今すぐ場外馬券売り場に行こうか」
「はぁ?」
「マジで急いで。間に合わなくなるよ。もうギリギリだ」
余談だが、借入返済シミュレーターで確認したところ、5年で返済した場合、毎月6万5千円ほど返済せねばならず、総返済額は390万ぐらいだった。ほぼ倍になるのかぁ・・・
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