第16話 会員数の少ない今がチャンスだ

 予言を決めてドヤしてやれば、一発で信じさせることができる。例えば、今日予言して、数日以内に結果が出ればかなり理想的だ。しかし、無いのである。記憶を探り、ネットを掘りに掘ったが、都合の良い事案は見つからなかった。21年は遡りすぎなのだ。記憶が薄れすぎていた。

 仕方がないので今日も手ぶらで叔父さんの家に来ている。

「だからさー、爆上げする株とか知ってんだって。一生分遊べるぐらいのお金稼げるんだよ」

「そういわれてもなぁ(笑)それにその株って何倍になるの?1000倍?」

「うーん、はっきりした数字はわかんないけど10倍とかじゃないかな」

 残念ながら株には疎いので、ヤフーがめちゃくちゃ上がった、ぐらいの事しか知らないのだ。

「俺の貯金10万だぜ。そりゃ100万になったら嬉しいけどもさ」

「それ貯金じゃなくて今月の生活費だろ・・・」

 投資でチートするにしても種銭がないとどうしようもないのだ。うっかりしていた。仮に俺が自力で投資するとして、株の取引ができるようになるのは最短で9年後だ。それまでにお金を必死こいて貯めても精々100万とか200万だろう。それを10倍にしたものを更に10倍、その上にそれを数倍にしてようやく悠々自適な生活に至れるのである。一体何年かかるのであろうか。元の年齢ぐらいになってしまうのではないか。このままいくとどうやらまたサラリーマンにならないといけないようだ。地獄のような就職活動をして第何志望かわからないような会社に滑りこまないといけない。やはり叔父さんを駒にして早く投資を始める必要がある。

「叔父さん。この前預けた本、結構よい値段ついてるんでしょ」

「おー、めっちゃ高くなってるな」

 いわば末端価格だからね。

「そうやってさ、頑張って元手を作って投資しようよ。そりゃそれなりの金額になるには何年もかかるけどさ」

「まあちょっとぐらい投資してもいいけどなー」

 根本的にタイムリープを信用していないのだから響かない。やはり予言を決めるしかないのか。なんかいいネタないかなー。しかしその前にやらねばならないことがある。

「ところでちょっと気になるものがあるんだけど」

 気になる箱があるのだ。

「何?」

「その箱に書いてるニューカキンってネットワークビジネスの会社だよね?」

 スターターキットの箱である。

「え、何で知ってるんだ?日本でビジネス始めたとこなんだぜ」

「まあ数年後にちょっと話題になるからね。ワイドショーとかで」

 本当に良いものを広める、という体裁をかなぐり捨てた露骨で強引な手法で急成長したのがニューカキン社である。やばげな添加物の入った化粧品で健康被害を出したこともあり、そこそこ世の中を騒がせる事になるのだ。

「まだ会員数が少ないからチャンスなんだ」

 俺の未来ネタはスルーするつもりらしい、畜生。しかも、マルチ商法の洗脳はそこそこ進んでいるようだ。どうしよう?

「叔父さん、マルチ商法は世間一般では嫌われてるんだよ。それにマルチで成功するってすげー大変なんだぜ」

「わかってるって。ちょっと試しにやってみるだけだって。先ずはこの商品がいいモンかどうか試してみないとだしな」

 微妙に話が嚙み合わない感じが非常に良くない。しかし、ここで論破しても意固地になってしまう可能性がある。軽く叩いておくか・・・

「でもさ、叔父さんにその化粧品に健康食品、洗剤の良し悪しがわかんの?使ったことないモンばっかりじゃない?」

「え・・・」

「これ、高いんでしょ?高くて粗悪な物だったらやばいよ」

 ぐぬぬと黙り込んでしまう。弱すぎるぜ叔父さん。徹底した品質管理の元、安価で有害な添加物を使わず高品質な原材料を使用して製造しているからお高いんだぐらいの事は言わないと。その歯磨き粉だって舌がおかしくならないやつなんだよたぶん。

「俺、未来ではどうなってるの?」

「え!?」

「20年後は何やってるんだ?」

 わかりません。職業不詳たぶん無職だとは言えない。盆と正月に顔を合わせるぐらいだから詳しいことは本当にわからない。今と変わらない雰囲気で、よれたスウェット着て、いつだってニコニコ明るく笑ってるのが叔父さんだ。20年経つと本体もよれてきてちょっと禿ちらかしてるけど。

「そうかー」

 叔父さんの心が閉じた気がした。気まずい顔で沈黙したのがまずかった。たぶん地雷を踏んでしまったのだ。

「まあ、またヤフオクで売れるものあったら持って来いよ!」

 笑顔で叔父さんは言った。

「うん、ありがとう」

 それでも俺に協力してくれるのだ。優しい人だと思う。本気を出さねばなるまい。

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