ネットワークビジネス編
第15話 いい話があるから直接会って話したいって健康食品売りつけますって言ってるようなもんだよね
-------忘れていたポエムを追記-------
なんでミエミエの詐欺に引っかかるの?
金銭欲が強すぎたのです。金に目がくらんでいたのです。
欲望という致命的なセキュリティホールが空いているのです。
それは物質的な欲望に限らない。精神的な欲もある。
愛に目が眩むこともある。
それがミエミエのサギであったとしても。
--------ここまで-------
ああそれにしても金が無い。
というほどでもないが、せどりでお金を稼ぐのもいい加減うんざりしていた。小学生が何処で金を使うんだという話ではあるが、金銭的自由がある大人の生活に慣れ切った俺には、お小遣い1500円/月の生活は辛い。気が向いた時に飲食したり雑貨を買ったりゲームを買ったりしたいのだ。それにはせどりの収入はあまりに慎ましい。もうタイムリーパーとしての俺の協力者を作ろうと決めたのだった。
アテはある。母の弟である叔父さんだ。叔父さんも俺と同じくオタク気質なので気が合う。ただ職業不詳で何をしているかよくわからない人だった。平日でもふらりと現れて遊んでくれたので俺は嬉しかったが、母は「和夫は仕方ないわねえ」などとよく言っていたので、まあ定職にはついていなかったのだろう。
善は急げというわけで、放課後、叔父さんの家にやってきた。小汚いアパートの一室に芳山和夫の表札があがっている。呼び鈴を鳴らして即ノックして呼ばないと叔父さんは出てこない。
「叔父さーん。翔だよー。遊びに来たよー」
ドアを開けて叔父さんが出迎えてくれた。無精ひげにボサボサ頭、ヨレヨレの部屋着である。服装に頓着のない人なので部屋着も外着も大して変わらないのだけど。
「おー、翔かー。入れよ」
臭くて散らかっているワンルームが懐かしい。地元を離れるまではよく遊びに来ていたのだ。
叔父さんはNEOGEOオタだった。なので今プレイしているのは餓狼伝説スペシャルだ。俺も格ゲーは好きなので別に構わないのだがハードがNEOGEOCDなのはキツい。ロード時間がアホほど長いのである。
カチャカチャカチャ。
「で、実年齢は32才だと。俺と変わんねーってことか」
「うん、信じられないと思うけどマジなんだ」
アホほど長いロード時間に俺をじっとみる叔父さん。「中二病キター」と思っているのが顔に出ている。
「いや、中二病じゃないよ。そう思うのはわかるけどガチなんだって」
「わかったよ」
と言いつつ、「こいつぁ重症だぜ」と思っているのは明らかだった。
「違うんだって。未来の情報を持ってるわけだから証明だって出来る。というかそれを使って金を儲けるのを手伝って欲しいんだよ」
「なんかいまいちファンタジーの無い設定だな。未来からやってきた光の戦士とかじゃないの?」
「だから中二病じゃないんだって。これから爆上げする株とか知ってんだよ」
「そうかー。そりゃ買わないとなー」
全く信じてもらえない。ここで一発未来予知でも出来ればいいんだが、そんなに事細かくここから21年の歴史を覚えているわけではない。
「うーん、じゃあさ、こういうのはどう?」
仕方がないので21年間で培ったゲームのテクを披露することにする。俺の操るギース・ハワードがちょこまかと前後に動く。
『レイジングストーム』
『レイジングストーム』
『レイジングストーム』
この超必殺技はコマンドが複雑で、当時の俺には発動できなかったのだ。
「おお、いつの間に。練習したのか」
かなり感心しているが、これぐらいで信じてもらえる筈はなかった。
「畜生。SNKは倒産するんだからな」
「え?」
「ネオジオランドも無くなるんだぞ」
今、SNKは民事再生法を申請し、再生手続き中であった。しかし、数か月後、結局倒産するのである。とはいえ、今すぐではない。
「そんな馬鹿な・・・。大人をからかうもんじゃないぞ!信じられないな。こんなに面白いゲームを作ってる会社が潰れるわけがない!ないんだ!!!」
思ったより強い反応だった。失敗である。信者には刺激が強すぎたか。いや、事業は関連会社が引き継ぐからKOF2002も出るんだよと言おうとした時、叔父さんの携帯が鳴った。
「もしもし?」
「え?三好?久しぶりだなぁ。高校卒業以来だろ。どうしたの?」
「同窓会するの?あー、微妙だなぁ。え、別にいい?」
なんかキナ臭いなぁ。
「え?いい話って何?」
はい、きました。
「なんだよ今教えろよ」
それはファミレスじゃないと教えてもらえないやつなわけで。
「あー、そうだよ。地元だよ。ん?ガストで待ち合わせ?別にいいけど」
いつの時代もマルチ商法はしぶとく在り続けるのだ。おっと、ネットワークビジネスって言わないと怒られるかな。
「おう、じゃあ夜の9時ね」
俺の大事な叔父さん(駒)をマルチ野郎に取られるわけにはいかない。
「叔父さんそれマルチ商法の勧誘だよ」
「え?」
「いい話があるって呼ばれたんでしょ?ベッタベタの手口だよそれ。行ったらその三好くんの先輩がいるわけよ」
「お前なんでそんな事知ってんの?」
「だって大人だし?」
俺だって大人なんだが?という叔父さんの視線が飛んでくる。気まずい。出直すか。
「次、ヤフオクで売ってほしい商材持ってくるからさ。出品してよ」
「まあそれは別にいいけどさ。甥っ子と商売するっつうのもなぁ」
「だから俺大人だからさ。あ、タイムリープの話は絶対内緒にしてね」
叔父さんはニヤっと笑った。中二ネタは琴線に触れるものがあるのだろう。いやマジなんだけどなぁ。
「おう、俺たちだけの秘密だな」
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