第14話 気まずい事は社会人のノリでやるとやり易い
放課後、ややどうぞどうぞこちらでございますと丁重に長瀬を誘導していた。気まずい事は社会人のノリでやるとやり易い。よそいきの仮面っていうのかね。敵意が無いことを示すために道中で太田を何度か小突く。この馬鹿がホントにすいやせんね、へへへってなもんである。俺は一体何をやっているのか。
三度、体育館裏にやってきた。さてどうするのかと思っていると、山田と太田が顔を見合わせ長瀬に向かい合い、同時に言った。
「今までごめんなさい!」
なかなかキレイなお辞儀を決めた。殊勝な態度といえるのかもしれない。しかし俺はちょっと気に入らないなと感じた。何がダメかを考えてみる。長瀬を見ると怪訝な顔をしていた。
気まずい沈黙が続く中、俺は考察を進めていた。同時にいったのがダメだったんじゃないだろうか。仲間がいるってことは負担と責任を分け合うってことで、その後にやってくる痛みも分け合うってことだ。単純に1対2という構図が感じ悪いってこともある。ここは単独でいって制裁を受ける姿勢を示すべきだったんじゃないか、と結論付けたところで、長瀬が山田を蹴とばしていた。
「え?」
ちょ、おま、となってしまう俺。予想外にキレイな前蹴りが山田の腹部に突き刺さったのだった。グフっとうずくまる山田。間髪入れずに美しい弧を描いて回し蹴りが太田の脇腹にヒットする。ガハッと悶絶する太田。
ちょまてよと制止しようとした俺の鳩尾に肘打ちが刺さった。モロに食らってしまい呼吸が止まる。
「ふざけんじゃないわよブス!面倒いからスルーしてたら調子に乗りやがって。ごめんで済むわけないでしょ!」
「キモイのよデブ。死ね!」
えーーーーー。思ってたのと違う・・・めっちゃ気が強いじゃないっすか。なんで黙ってやられてたの?と表情で問いかけた。ちょっと呼吸が苦しいのでね。
「馬鹿の相手するのが嫌だったから無視してたの。なんか勘違いしてエスカレートしてたけど」
「そのうちやり返そうと思ってたけど、例の動画のおかげで収まったから機会がなくなっちゃったわけ」
「まあ面倒がなくなって助かったけどね。誰の仕業が知らないけど」
といって俺の方を見る。まあここんとこの動きを見てると怪しいよね、俺が。絶対に認めませんよ?
「今日も仕返しするチャンスを作ってくれて助かったわ。ありがと」
いや前のは俺ジャナイヨ。
「こいつらは許す気ないから。さよなら」
一方的に告げて、スタスタと去っていく長瀬だった。茫然としてしまうが、とりあえず二人の無事を確認する。太田はデブでデカイから大丈夫だとして、山田はヤバイか?と思っていると、涙目ながら立ち上がったので安心する。
「大丈夫か?」
「たぶん・・・なんとか」
一応手加減してくれたのか、内臓は無事っぽい。
「びっくりした・・・」
「そうだな・・・
「ブスっていわれた」
「そんなことないさ」
「蹴られた・・・」
「俺も肘鉄食らったぜ」
「やっぱり許してくれなかった」
「それは仕方ないな」
「あ、アニキぃ」
太田が自分の事忘れてない?的に訴えてくるが、お前はまあそんなもんだろ、ざまぁwと笑っておく。
「酷くない?」
というが、黙ってやられてろ、俺の事いじめてたのも忘れてないからな?と追撃しておく。
俺たちは3人並んで座り込んだ。遠くを見て溜息をつく。それにしても予想外すぎる展開だった。そもそも、俺が手を出す必要なかったんじゃないか。俺が何もしなければ、長瀬は山田達を蹴っ飛ばして自力で解決してたんじゃないだろうか。元々の時間ではそうなってたのではないかと思える。それとも、今の状況があるからこそ強気に反撃出来たのだろうか。今となってはわからないことだが。
「帰ろうか」
徒労感を抱えて立ち上がった。俺にはスッキリしないモヤる結末だったが、こいつらにはそう悪くない結果だったのかもしれない。罰を受けることで楽になることもある。二人の表情は心なしか晴れやかに見えた。
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