第11話 2ゲットしてたら誘拐事件が起きていた

 平穏である。学校やせどりもルーチンになりつつあり、人間関係も落ち着いてきた。といっても、学校以外で友人とのお付き合いはない。一人でゲームをしたり漫画を読んだり2ちゃんねるで2ゲットをしたりと、割とダメな怠惰な生活を送っていたのだ。タイムリープをしているのにそれはないだろうと思わない事もない。しかし、人間とは安定を好む生き物なのだ。そうではない人もいるようだが、俺は波風のない日常が好きなのだ。例え過去にリープしようとも、だらだらとした幸せを噛みしめていた。

 しかし、そんな平穏を破壊するアホがやってきた。

「アニキーーー!!」

 何故大声で呼ぶんだ。呼び鈴鳴使えよアホめ。太田のやつ何しに来たんだ。

「うるさいよ。俺は今取り込み中だ」

 塩対応で追い返そうと試みる。

「山田が三谷たちに攫われた!」

 何言ってんだこいつ。いくらなんでも小学生がそんなことするわけないだろ。俺たち小学生なんだぜ?やれやれだぜ、と伝える。

「三谷が俺んちに来て言ったんだよぉ。3丁目の廃工場にアニキを連れてこないと山田をやっちまうって」

「なんでその場で捕まえなかったんだよ」

「チャリで猛ダッシュして逃げたんだよ」

 うーん、そんな馬鹿なと思うが、見過ごすわけにもいかなかった。しかし、次から次への事件が起きすぎじゃないか。「運営」的な奴らがなんか操作してる?

「本当に三谷がそう言ったんだな」

「うん」

「一井もいるのか?」

「たぶん」

 まああいつらコンビキャラだからなぁ。

「ちょっと待ってろ。準備してくる」

 5分ほどで準備を終える。思ったより時間がかかってしまった。不自然に突っ張ったカバンを前カゴに入れ、太田とともにチャリで猛ダッシュする。

 太田がデブの癖に早い。俺のガワは並の小学生なので、ついていくのに必死だった。廃工場が近くて助かった。

 少し奥まった場所にあるそれは、ちょっとした自動車修理工場ぐらいの規模の建物だ。空地に囲まれていて、不良のたまり場にはもってこいの立地である。というかスプレーのマーキングが大量にあるのでたまり場そのものであり、小学生が近づいてはいけない場所であろう。地元にこんな危なげな場所があったのかと驚きつつ太田について中に入る。かなり疲労していたが、余裕ぶるのは忘れない。大人のプライドである。

「きたぞ!」

 と太田が叫ぶ。窓から差し込む光で中は普通に明るい。ドンガラの廃棄車両にいい雰囲気で腰をかけるサンピンコンビと、少し離れた所に落ち着かない様子で腕を組んで立つ相田と尾井、その後ろに本当に山田がいた。なんと後ろ手を縛られている。

「マジかよ・・・」

 と、思わず呟いてしまう。

「お前ら小学生だろ?何やってんの?」

 大物感を出しつつゆっくりと立ち上がる三谷。

「お前だって小学生だろうが!」

 突っ込まれてしまう。

「あほか、俺は普通の小学生だ。拉致監禁ってお前ら頭おかしいんと違うか」

「あーん?状況わかってんのかコラ!態度でけーぞ」

 信じられない。立派な漫画的ヤンキーのような事をいう。まだ小学生なのに・・・

「山田を離せ!」

 太田が叫ぶ。それっぽいセリフは全部こいつが言っている。キャラ変わりすぎなんだよと改めて思う。

「ああああああああ!何良い奴ぶってんだデブ!!むかつくんだよおお!」

 一井が突如ぶち切れて叫ぶ。無口な奴がたまに喋ると説得力あるなぁ、完全同意だぜ。

「土下座しろおらああ!」

 ポケットから十徳ナイフを出した。無口な奴が切れると怖いぜ。とはいえ十徳ナイフではなぁ。小学生らしくて安心する。俺の獲物の方が強い。

 そんな便利グッズでは俺はやれないぜ?やれやれなんだぜ?と身振り手ぶりで伝えると、ギャオスといった具合に一井が逆上した。三谷は既に少し引いている。

 一井は山田に飛び掛かると、ナイフをその首筋にあてた。

「ひっ」

 と小さく悲鳴を上げる山田。

「ぶっ殺すぞオラァ!」

「やめろ!俺が代わりに・・」

 と太田がよさげなセリフを吐いてる途中だが、

 ガキイイン!

 とでかい音が鳴り響く。俺がカバンから大型のモンキーレンチを出して手近な鉄骨をぶった叩いたのだ。

「なにやってんだコラァ!!」

 頭に血が上っていた。

 ガキイイン!

 ガキイイン!

 ガキイイン!

 と続けて鉄骨をぶっ叩く。

 モンキーレンチを振りかぶって一井の方へずんずんと向かう。

 山田を挟んで一井の前に立つ。何処を砕いてやろうか。

「待って、時尾」

 慌てたように山田がいう。

「あたし、何もされてないから。殺しちゃダメ!」

 いや、流石に殺さないよ。ちょっと骨を砕こうとしただけだって。やや冷静になってみると、一井は涙目になっていた。

「でも骨ぐらいいっとかないと駄目だろう」

 どけよ、と山田に言う。

「骨もダメだから!ちょっと落ち着いてよ」

「じゃあ何処なら殴っていいんだよ」

 ビクッと怯える一井。

「ダメだってアニキ!」

 いつの間にか近くにいた太田に羽交い絞めにされる。

 一発ぐらいいいだろ、バールじゃないから大丈夫だってなどとやっているうちに完全に冷静になってしまった。

「わかったよ。離してくれ」

 太田がほっとした様子で俺を解放する。その瞬間、モンキーレンチを両手で持ち直し、一井の持っている十徳ナイフに叩きつけた。カキンと転がっていく十徳ナイフを見送って、一井に腹パンしておく。「うっ」と蹲る一井を見て満足した俺は、転がった十徳ナイフにモンキーレンチを叩きつけて完全に破壊しておくのだった。

「さて、どういうことか話してくれよ」

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