第10話 閑話のテトリス

 あれから、山田と長瀬がどうなったかはわからないが、山田は何かが吹っ切れたような様子だった。人間関係がリセットされたようで、ほとんど独りぼっちで過ごしている。

 俺は相変わらず太田に付きまとわれている。太田のせいで他のクラスメイトが寄ってこない。仲良くしていた奴もいる筈なのだで困ったものだと思う反面、太田をあしらっているだけで良いのは気楽でもあった。悪くない状況になったといえる。ただ、サンピンコンビがあからさまに俺を敵視しているのは少し面倒だった。一度、腹パンでへこませてあるので、直接何かを仕掛けてくるわけではないのだが、俺の方を見ながらコソコソ何かを企んでいる雰囲気がある。

 また、このサンピンコンビと、元山田の取り巻きである相田と尾井の女子二人組が接近しているようだった。良からぬ事を企んでそうだったが、正直なところあまり気にならない。タイムリーパーとしては、今の自分の状況が他人事ように感じられるのだ。その代わりなのかはわからないが、関わりを持った他人の事はそこそこ気になる。

 ぼっちの山田をちょっとは構ってやらないといけない使命感のようなものがあった。なので、俺と太田、山田が仲良しグループのようになりつつある。

「山田ー、おっはー」

 昨日テレビでみたシン〇ママの真似をする。この挨拶は意外と定着し、割と長い間使われていたが、2022年の若者は流石にこんなこといわない。俺より少し上の世代の親父ギャグに分類されていた。

「お前暇だろ?テトリスしようぜ」

 といって、ゲームボーイを二台取り出す。ニンテンドーDSの登場まではあと何年か待たねばならない。GBアドバンスが発売されていたが持っていなかった。

「なんでGB持って来てるのよ。そういうの禁止でしょ。てかなんであんたとテトリスしないといけないのよ」

「太田が下手くそだからさー。相手してくれよ」

「アニキィ」

 たわいもないやりとりである。対人スキルの低い俺がやることなんてこんなもんだ。何らかのアイテムが無いと間が持たないのである。

 通信ケーブルを取り出し2台のGBを繋ぐ。この時代にもwi-fiはあったが、現代と比較して対応機器が高価であり、子供用のゲーム端末に付いているようなものではなかった。便利ではあるがまだ通信速度が遅かったこともあり、今ほど普及もしていなかった。それ故に、ニンテンドーDSの登場はなかなかの衝撃だったのである。タッチパネルに無線通信機能が搭載されておりインターネットにも接続可能だった。PDA端末の要素を持ちつつ、そこそこのグラフィック性能で3Dゲームも遊べるのである。それでいてお値段が15000円ほどなのだからまさに夢のようなゲーム機であった。まあ実際にはゲーム以外に使うことはほぼ無かったわけだが。

 などと考えていると、ついつい本気でテトリスをプレイしてしまい、4列消しを連続で叩きこんでいた

「あんたとはテトリスしたくない。他のにして」

 テトリス禁止令を出されてしまうのだった。

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