第6話 大人なので証拠隠滅もしっかりやる

 そもそもグッドポイントという名称に腹が立つ。それっぽいからこれでいいっしょ!的に適当に決めた感じの意味不明さが許せない。まあそれはいい。太田のシャツの襟をつかんで引っ張り上げた。

「殴られると痛いんだよ」

 恐怖と混乱といった感じの太田の表情である。次はもっと酷い目に遭わせるぞと念押しして太田を解放する。もう絡んでこないと良いのだけど。

 さて、もう帰りたいが切り上げ方がわからない。気まずい空気になってしまう。「ケッ!」と言っておく事にする。そして余裕ぶってる感のある歩き方を意識して立ち去ったのだった。ちょっと上手く行き過ぎたなと思う。道場で組み手はやっていたが、実際の荒事の経験はほとんどない。小学生相手だから余裕だったのだ。


 思い返すと、今日は結構なことをやってしまった。はっきり犯罪行為である。予定外に太田をシメてしまったし。タイムリープしているという現実が、行動を大胆にしてしまっている。良くないかもしれない。

「おかえり」

 と出迎えてくれた母の目を見られないのは後ろめたさだ。

「ただいま」と小さい声で応えて自室にこもる。


 それにしてもグッドポイントとは何なのだろうか。ここまで多数の違法行為をやっている。不法侵入、器物破損、窃盗、威力業務妨害と、更に太田には暴行もしくは傷害だ。

 適法性とは無関係にポイントは付与されるのだろう。まあ運営は人外級の何かだろうから、人の法に縛られていないのは当然ともいえる。

 どうも俺の主観的評価に基づいているように思える。

 というのも、ポイント目当てで試した善行は俺としてはそこまで良いこととは思っていないのだ。

 ゴミを拾ってゴミ箱に捨てたのも、ゴミをポイ捨てしている子供を見つけて注意したのも、信号待ちをしているヨレヨレの老人の手を引いて信号を渡ったのも、偽善的だと思いつつやったのだった。

 その点、いじめを止める為にやったこと私憤混じりだが確かな義憤があった。太田を倒したのもそう。

 俺が善い行いだと思っていればポイントが付与される、と仮定しておく。俺の独善性を育てそうで怖い仕組みだな。まあ実は見返りは今のところないのでそこまで心配しなくてよいと思っておくことにした。

 それにしても、やっちまったなぁ…とそれなりの後悔を抱きつつ枕に顔を埋めた。他方でやってやったぜ、という達成感もある。それが交互に訪れる落ち着かない心境だ。だが、わけのわからぬタイムリープが起きてしまった俺には、グッドポイントを得ることは唯一の目的なのだ。生きる希望だといえる。だから今後も同じようなことをやるだろう。やらざるを得ない。とはいえ必ずやるわけではない。基本は怠惰な人間なのである。気分を切り替えて、証拠隠滅作業にとりかかる。


 父の部屋に入ると、パソコンと大量の周辺機器が置いてある。父はパソコンが趣味で、高額な機材が揃っていた。これらを使って悪さをしたというわけである。

 2001年ではDVD-Rドライブは10万円もするのだ(2022年では数千円で買える)。DVD-Rディスクも1枚1000円ほどもするのだ!こういった高級品を俺に自由に使わせてくれるのだから、我が父の度量はなかなか広い。

 さて、このパソコンのHDDに見た目上は残っていない動画データを完全に消去しておきたいわけだが(今の時代ならそこまでしなくて良い気がするけど)、そのためには物理フォーマットをする必要がある。OS上でデータを消去しても、物理的にはHDD内に残っているのである。

 当然、システムを完全に初期化する事になるので、父が激怒する事に…ならないのである!

 何故ならこのパソコンのOSはWindwsMEなのだ。

 今を生きる人々には信じられない事かもしれないが、このOSは頻繁に壊れるのだ。普通に使っているだけでOSがぶっ壊れ「またブルースクリーンねはいはい」って感じで日常的に初期化作業をしていたので、失って困るデータはOSとは別のHDDで管理していたのであった。

 というわけで、

「お父さん、またパソコンが動かなくなったんだけどー」

「あー、ME再インストールしといてー」

 許可をとったので作業開始である。

 今はもうほぼ見ることがないフロッピーディスクドライブに物理フォーマッタの入ったdiskをイン!この作業は時間がかかるのでしばらく放置する。そして、OSの再インストールを行う。尚、隠し撮りに使ったデジタルビデオカメラのメモリーカードは既に物理フォーマットが済んでいる。これで一応証拠は無くなった筈!たぶんね。把握できてない監視カメラでもあったらどうしようもないが、この時代はそこまでカメラは仕掛けられてないので大丈夫だと思っておく。

 すっきりした気分で用を足し、洗面台の前に立った。前から思っていたが前髪が邪魔だった。普通のハサミでザクザクと切る。多少不格好になったがくしゃくしゃとラフにセットすればラノベの主人公のような髪型になった。

「あんた、何してんの!?」

 母にちょっと怒られてしまった。散髪代をもらったので近いうちに行くとしよう。

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