第5話 ガキ大将キャラの太田と対決

 穴だらけの犯行だが上手くいったといえる。所詮小学生のやったことなので、バレたところでそこまで厳しい処分はないだろうという計算は当然ある。

 そそくさと靴箱を目指していると、

「おい待てよ!」

 と声をかけられた。振り向くと太田である。

「何目立ってんだ!調子に乗るなよ!」

 え、まさかさっきの犯人が俺だって気づいたのか?

「ちょっと来いよ!」

 といって俺の腕をつかんで引っ張っていくのだった。このアホそうな奴にバレてしまうなんて、動揺を隠せなかった。ともかく人目のあるところで騒ぎは今はまずい。されるがままに連れていかれた。


 人目につきたくない時は体育館裏、というフィクション由来の常識がある。しかし、実際に体育館裏を利用した者は多くないのではないだろうか。俺は今初めて体育館裏を利用している。確かに人気はない。目の前の太田は「犯人はお前だ!」をやろうとしているのか。緊張しつつ発言を待つ。

「最近お前調子乗ってるだろ。シメてやるよ!」

 違った。表情が弛緩してしまう。

 俺のゆるい様子にイラついたのか、半分だけ肩にかけていたランドセルを地面に叩きつける太田。

「ぷっ」

 思わず吹き出してしまう。だって、

「体育館裏でシメるってお前、漫画の読みすぎじゃないのか(笑)」

 状況の不条理感が可笑しすぎる。

「なめてんのかコラァ!」

 激高して殴りかかってくる太田である。しかし顔面を狙うのは酷くないか?バックステップでかわす。2発目、3発目も同じくかわす。俺のランドセルがガッシャガッシャと揺れるのがシュールに感じる。

 こいつは一度痛めつけてやろうと思っていたのだから好都合だ。単純に腹が立つのもあるが、痛みを知らない人間は優しくなれないもので、こいつはそういう手合いではないかと思っていたのだ。半ばは教育的指導ってやつだ。もちろん体格差のある相手を倒すのは厳しい。しかし、相手は子供な上にド素人で、こっちはそこそこやってる方だ。

「逃げてんじゃねえぞコラ!」

 と、更に前のめりで殴りかかってくるのをいただくことにする。左腕でパンチを受けつつ半歩踏み込んで右拳を相手の鳩尾あたりに軽く置く。後の先というやつだ。ふにゃっと柔らかい感触が右拳に伝わってくる。

「おえっ」

 無防備な状態で食らう攻撃は効く。カウンター気味になるので手加減が難しかった。腹を抑えて前かがみになる太田。

「お前、何して…」

 涙目で睨みつけてくるが、既に戦意は無いようだ。

「意外と打たれ弱いなぁ」

 ニヤっと笑って追撃を加える。傷を残さないように手刀で軽く喉を打つ。

「~~~~~~~」

 声にならない声をあげる太田。ダメ押しに掌底で顎を打つ。どさっと膝をついて太田は泣き出していた。

「げほげほげほ!やめてくれよ!痛えよぉ!」

 やっぱり意外と悪い奴じゃないのかもしれない。

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 なんでやねん!

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