第2話 いじめ
ーーーここからポエムーーー
何故いじめはなくならないのだろう?→楽しいからに決まっている。
劣っている、と設定した者に対して、自分は優れていると主張すること、上の立場なのだと確認することはたまらない愉悦なのだ。
それは面白おかしくてたまらない快楽だから、何度もやる。いずれ慣れて退屈してくるので、もっと苛烈にやる。
人が快楽を求めるのは当たり前の事だろう。
だから社会には必ず起きる事なのだ。
ーーーーーーここまでーーーーーー
俺の住む町は地方都市だ。駅に行けばちょっとしたショッピングモールがある程度には栄えているが、周りを見れば遠からず山が見える。俺の実家は新興住宅地である。通学路にそれなりのアップダウンがあるのが少し大変だ。それなりに活気のある町だが、21年後には人口減少によって寂れつつある。不動産価値がかなり下がってしまい両親の老後の人生設計が少し狂ってしまうのだがそれは今は絶対に言えない未来の秘密である。
通学は徒歩15分ほど。懐かしい道のりをとぼとぼ歩きながら、入手したクラスメイトの情報を整理するのが既に日課となっている。大学進学とともに都会に出たので、故郷の者と交流がほとんどなく、クラスメイトのほとんどを忘れてしまっていたのだ。それでも記憶が刺激されて思い出す事はあるものの、顔を名前を一致させる作業がなかなか難儀だ。必死に覚えたのであまりビクつかずには済むようになってきた。クラスメイトをスクールカーストによってランク付けして遊ぶのが少し楽しいのが虚しい。
小学5年生の俺は実にアホな子供らしい子供だったと思う。クラスメイトも同じようなもんだったと認識していたが、実態は違ったらしい。
妙に大人びているのが少なからず存在するのだ。特に女子はゾッとするほど大人びていて油断がならぬ。女子は成長が早いというが、大人とそう変わらないと思わせるものがある。
いつか来た道がよくわからない。俺は本当にこの時代を通過したのだろうか。
学校が近づくと、クラスメイトから声をかけられる。こいつはランクBの何某だな、などと整理している記憶の確認をする。
教室に入ると、先ず目に入るのは長身の美女だ。名を
長身といっても目算で160cm程度だが、小学5年生としては目立つ長身といえる。
自席に座る彼女から3歩程離れた位置にいるちょっとケバいのが
「長瀬さん、おはよう。今日も大人っぽくて素敵~」
ここのところ毎日見せられている不愉快な光景だ。
もはや嫌な顔をするのも億劫なのだろう、無言、無表情で山田を一瞥して俯く長瀬。
「えー?無視しないでよー。どうやったらそんな風になれるのー?」
更に口角を釣り上げて山田が言う。
長身で大人っぽいというのは欠点ではない。むしろ美点である。しかし、年頃の女子にとって平均値に収まらない特徴というのは難しい問題でもある。山田はここに至るまで繰り返し繰り返しこの点を強調する事により、劣等感として長瀬本人の認識に定着させたのだろうと、容易に推測できる状態だった。やや猫背の長瀬をみていると、義憤に駆られるのは自然なことだろう。
こいつは長瀬をいじめている。
といっても、その手段は暴行や器物損壊ではない。精神的攻撃であり、明白な誹謗中傷でもなかった。山田はなかなか狡猾で嫌な奴だと俺の評価は確定していた。
それにしても自分のクラスにいじめがあったとは記憶にない。当時の俺はボケーと生きていたのだなぁ…と少し落ち込む。
「あなたの後ろだと黒板が見づらいのはちょっと困るんだけどね」
と山田のネチネチとした嫌味を聞きながら思う。
嫌な女だなぁ、と思いつつも、俺は他人にそう関わる方の人間ではない。色々面倒なので、少し距離を置くのが常だ。傍観が基本姿勢である。思えば大人の俺もモブだった。それでも、人付き合いはそれなりにちゃんとしていた。友人もいたし、恋人もいた。ただ、あまり深入りはしたくなかった。数合わせには呼ばれる友人の何人かの一人、なんとなく自然消滅しちゃった彼、可もなく不可もなく毒にも薬にもならない存在それが俺だ。
そりゃ、悪には怒りを感じるし、困った人がいたら手を差し伸べたくなる。だけど、人間というものは複雑で、勇気を出して踏み出した一歩が返って相手を傷つけたり、自分を傷つけたりすることもある。相手の事を深く知りたくなり、自分の事も知ってほしいという気持ちもないわけじゃない。だけど、知りすぎた故に致命的に人間関係を破壊してしまうということもある。
信頼だの裏切りだの、傷つけるだの傷つけられるだのが心底億劫だったのだ。
というわけで、少々山田にむかついたところで具体的な行動を起こしたりはしない冷めた人間、の筈なのだが「コラーーなにしとるんじゃぁ!」と怒鳴りつけそうになるのを堪えているのが現状である。心が大人なので保護者的な感覚があるのかもしれない。
しかし、行動できないのは他にも理由があるのだ。未来の記憶を持った俺が過去である現在で、どう立ち振る舞うべきか、という大きな問題があったからだ。未来を変えてしまってよいのかという問題である。俺が自粛しないと、俺と俺の周辺(特に俺)の歴史が大きく変わってしまうのは明らかだ。できるだけ、俺の歴史に一致させるように行動していくのが無難だと思われる。しかし、それはとんでもないクソゲーであるのは間違いないのだ。いや、クイズゲーム的な面白さはあるのかな…何故俺がこんな目に…と思ったのもう何度目か。
「大人の恋人?とかいそうよねー」
山田の嫌味はまだ続いていた。こいつは死んだ方がいいんじゃないだろうか。
エロトークの気配を察知して現れたのが
このジャイ鉄もどきがスケベ面で山田に便乗する。
「お前ホントに小学生かよ、デカすぎんだけど(笑)」(立派にあっちこっち成長しやがってよぉ)←実際には言っていない。俺の脳内補完だ
「ここ小学校だぜ、高校と間違えてんじゃねえのー」(確認させろよデヘヘ)←実際には言っていない
「おい聞いてんのかよ~」
にやけ面で長瀬の肩に触れる。こいつも死んだ方がよい。セクハラじゃねえか。
頭がカッと熱くなる。反射的に太田の腕を掴んで言った。
「やめろよ、嫌がってるだろ。股間膨らませてんじゃねえぞこのエロガキ!」
やってしまった。いやセクハラは生理的に嫌悪があるのだ。マジで不快なのだ。この太田のスケベ面がおっさんに見えたのだ。いや俺も中身は半ばおっさんだけども。
しかも俺もこいつ時々いじめられていたのは覚えていたのだ。公私混同の怒りが爆発してしまったのである。
腕組みをしてニヤついていた山田も唖然としている。その取り巻きも。
当の太田は図星をつかれて顔を真っ赤にしてフリーズしている。
ななななななな等と震えてる太田をどう処理すべきかと考えていると、突然目の前にメッセージが浮かんだ。
『グッドポイントを1獲得しました』
網膜に直接表示されている感じの半透明の機械的な文字である。
「はぁ?」
と思わず声がでる。
チャイムが鳴り担任教師がやってきた。
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