ポエムから始まる2001年黒歴史の旅
前田・S・テツフク
1章 導入編
第1話 タイムリープ
ーーーーーポエムーーーーー
誰にでも思い出したくない過去がある。
黒歴史と人は言う。
熱いパトスを綴ってしまった手紙。
勢いで残してしまった写真。
酔って送ってしまったメール。
そして卒業アルバム。遡ると恐ろしいSNS。
しかし本当の黒歴史は思い出すことのできない記憶にある。
再生する事も憚られるメモリーが誰にでもあるのではないか。
ーーーーここまでーーーー
人には過去に戻ってやりなおしたい事があるらしい。
全く理解できない。何故、大変な思いをして乗り越えた事をもう一度やらなければならないというのか。
俺の名は
人並程度に語ることがあるが特筆する程の事はない普通の、一般的で平均的な人生を送ってきた。それでも、32年は案外長い。泣きたい事、消え去りたい事、死にたい事等、艱難辛苦を乗り越えてやってきたのだ。それを無にするようなやり直しをしなくてはならないというのは地獄だろう。
それなのに俺は今11歳なのだ。何故か2022年ではなく、2001年のようなのだ。
夢だと思いたいところだが、11歳になって既に1週間が経つ。
夢から覚めたら当たり前に子供の身体で、母親がやけに若く実家がピカピカなのだ。自分は子供の身体なのだという実感がやけに生々しく現実的なのだ。その実感がいやおうにも現状を受け入れさせた。
元の時間に戻れないのかと色々藻掻いてみたが、数日で諦めた。戻るといってもあまりにとっかかりが無さ過ぎたのだ。俺は小学5年生を淡々とやる事にした。
地味だが存外に可愛らしいビジュアルの自分だけが少し救いだ。32歳の俺は少し禿はじめた上に太り始めた地味メンだ。
しかし、やや長い前髪が気になる。顔を隠したいような気持ちがあったのだっけ?
身体は子供、心は32歳というのは退屈でスリリングな日々だ。
勉強は当然のことだが簡単でつまらなく、ゲーム機は最新鋭!?のプレイステーション2で散々やりこんだソフトしかない。しかし、クラスメイトの顔と名前、人間性が殆どわからない。20年近くアクセスしなかった情報は雲散して、毎日が初めてに満ちている。既に終わった筈の新鮮味が憎らしい。人生の続きをここでやっているのだという気にさせられる。過去の繰り返しだとしても。
そんなことを考えながら体を動かす。何度も繰り返し染みついた「型」の動きを丁寧になぞっていく。意外なほど違和感がなく、思い通りに動くことに安堵する。
そしてPS2を起動する。ほぼ見なくなったブラウン管のアナログTVにRGB端子に繋いで出力されるグラフィックは、2022年のゲームのそれと比べればざらざらカクカクの残念なものではあるものの、PS2はアーケードのクオリティをついに家庭に持ち込んだ名機だ。今でも楽しめるゲームがたくさんある、というかこれから発売されるのである。それしても自室にゲームがあるのはありがたい。悩みを忘れて無心になれる。久しぶりにやる『建設重機喧嘩バトル ぶちギレ金〇!!』はなかなか楽しい。その名の通り、建設重機を操ってバトルするゲームだ。久しぶりにプレイしてもそこそこ思い通りに動かせる操作性が素晴らしい。適当にぶん殴って、ゲージを貯めて必殺技を出す。操ってるものが重機なので全体的に大味なのだ。割とワンパターンの力技でサクサクと…まあク〇ゲーかなぁ…そういえば当時の俺はク〇ゲーをジャケ買いする事がよくあった。
ともかく、今は小学生をやり続ける他なかった。
幸い?にして、どうやら当時の俺はクラスでも目立たない存在、モブのようなのだ。ランク付けするなら真ん中より下のCである。モブは他人からあまり絡まれない。過ごしやすいといえた。
モブいおかげもあって、それなりに11歳をやれていると思うが、実は大人の俺には看過し難い事がたくさんある。それが悩ましい。
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