第8話 家族との語り

「恋人、できた?」


 その言葉にズキンと心臓を貫かれたような気持になる。

 乙女の勘という奴だろうか、本当に鋭い。


 どう言葉を返そうか、考えてしまう。


「言葉に詰まってるねぇ。さては本当に彼女さんできたな? 恵一にしてはやるじゃん」


「そ、そういうわけじゃないんだけれど──」


 いきなり指摘されて、面食らってしまう。

 変にごまかしても、いずればれると思う。仕方がないか。


「えーと、大学で千歳、幼なじみの、知ってる?」


「おっ、千歳? 知ってる。付き合ったの?」


「そういうことになった……」


 やり方が強引だということもあったが、交際を始めたことに変わりはない。気まずそうな口調で話す。姉ちゃんはそんなことを気にも留めず、一気にハイテンションになる。


「おー!! 恵一にしてはよくやるじゃん。えらいえらい! 初めての彼女。すっげー恵一。大人の階段を上りつつあるじゃん!」


「それはどうも……。でも、まだ登ってはないから」


「これからが重要だねっ。大切にしなよ」


「そのつもりだよ」


 当然だ。どんないきさつがあろうと、交際を始めたことに変わりはない。付き合うことになった以上、大切な恋人として大切に扱うつもりだ。


「まずデートの時、サイザリアなんて行っちゃだめだよっ!」


「はいはい」


 サイザリアとはイタリア料理のチェーン店。しつこい。異性のことを聞かれると必ずと言っていいほど言われる。

 鉄板ともいわれるネタ。聞き流すようなそぶりで答えると、姉ちゃんはさらに指摘してくる。


「そこ。面倒くさそうに言わない。なんでかわかる?」


「なんで?」


 確かに、どうして何度も注意するのかは気になる。

 時折SNSでも話題に上がる。「彼氏に食事を誘われたと思ったらサイザリアだった。死にたい」とか、サイザリアでおいしそうに食事をしている女の子の絵が大炎上したり──。


 SNSの弾薬庫とか変なあだ名がついたたりした。確かにファミレスではあるけれど、イタリアン料理の味はどれも一流だと評判なのに──。


「女の子はね、味だけじゃないの。雰囲気を求めてるの」」


 校長先生のような、うだうだと長い話が続く。


 話によると、デートでは女の子は味や値段よりも2人でいる時間というものを重視するのだそうだ。


「デートの場所は物静かなバーやカフェなんかがおすすめよ。

 逆にね、サイザリアって学生たちがいっぱいいてにぎやかでしょ。そういった場所だと落ち着いて話ができないから、初めてのデートには向かないのよ。何度かデートをして信頼関係ができたらそういうところでもいいかもしれないけど、最初のうちは安いお店はやめること。あと、席に着くときは対面で座ると女の子は身構えちゃうわ。隣に座ることをお勧めするわ」


 おせっかいという奴だろうか。永遠とデートについて話す。そして、いったん話が終わって言葉を返した。


「うん分かった。気を付けるよ」


「とにかく、千歳ちゃんをがっかりさせるようなことだけはしちゃだめよ!」


「口うるさいおばさんみたい」


 あまりにも長話だったので、つい小言をはさんでしまう。姉ちゃんは、イラっとしたような口調で言葉を返してきた。


「あんた後で制裁」


「はいはい」


「ま、初めての交際なんだし。千歳ちゃんに尽くすのもいいけど、しっかり楽しんできなさい」


「ありがとね」


「でも、もし一緒に寝ることになったら連絡して。どうすれば千歳ちゃんを満足させ──」


「はいはい」


 言葉が終わらないうちに電話を切った。

 スマホを投げ出し、ベッドに身を投げる。窓の外に視線を置き、今後のことを考えた。

 大変なことになっちゃったな……。果たして千歳のために尽くせるのか心配になる。


 経験のない俺が、知らないうちに千歳を傷つけてしまう。

 そんなことにならないか考え込んでしまうのだ。


 けど、千歳はどんな理由であれ俺を選んでくれた。だったら、千歳のために頑張るしかない。

 千歳。こんな俺だけど、一生懸命尽くしていくから。






 その後、夕飯の時に両親からも言われた。姉ちゃんの奴、俺が千歳と付き合ったことを両親にまで伝えやがったのだ。一回文句の一つでも言ってやった方がいいな。


 おかげで食事の時間、俺の話題で持ち切り。

 親父が嬉しそうに背中をたたいてくる。


「おおっとうとうお前にも彼女ができたのか。それもあの千歳ちゃんかー、運命だねぇ」


「まあね。俺もびっくりしたよ」


「いきなり押し倒したりするんじゃないぞ。まずは、一緒に食事をしたりして親睦を深めてからだな──」


「大丈夫だって。そんなことしないよ」


 口に入れていたパスタを飲み込んでから呆れ気味に言葉を返す。姉ちゃんと父さんってそういうところ本当にそっくりだよな。


「でも、初めての彼女なんだし2人で仲良くして、楽しく過ごしなさい」


「──ありがとう、お母さん」


 お母さんは、労う様に優しく接してくる。いつもそうやって、優しく声をかけてくる人。

 とっても、心の支えになるといっても過言ではない。


「でも、結婚するとなったらちゃんと挨拶に来るんだぞ。俺たちはいつでも、2人を待ってるからな」


「まだ先の話だけどね」


 父さんも姉さんも、やり方はどうあれ俺のことを考えて接してくれているのには間違いない。


 なんだかんだ言って、俺は今幸せだと思う。

 この幸せが、ずっと続いていくといいなって、考えてしまうほどだ。



 ☆   ☆   ☆


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