第3話 幼なじみとの、再会

 初めての講義。電車とバスを乗り継いていこうとしたら、思ったより混んでた。吊革につかまり1時間ほどで、大学のキャンパスへとたどり着く。


 最初ということもあって、少し早めに大学に到着。


 入って左側にある、比較的新しい建物にある左側の講義室。


 こじんまりとした部屋。一番前の席に座る。ペットボトルのお茶を一口飲んで心を落ち着けさせ。生協で買った教科書を見て予習。いろいろと呼んでいるうちに、時間5分前くらいになって、それなりに人が集まってくる。


 ざわざわと周囲がにぎやかになってきたあたりで、事態は起こった。


「恵一君──」


 どこか見覚えがある声で、誰かが俺の名前を呼ぶ。誰だろうとパッと後ろを振り返ると、一人の女の子がいた。


 黒髪で、上品に整えられたロングヘア。

 清楚なイメージの白いワンピース。太ももが3分の1くらい出たフリフリのスカート。

 どこか大人びた雰囲気のある女の子。

 初めて見る外見だけど、どこか既視感がある。記憶の糸をたどり、思い出そうとすると女の子はさらに近づいてくる。それはもう息が当たっているくらい。


 そして、ふっと微笑を浮かべて人差し指を自分に向けて言う。


「私千歳。覚えてる?」


 千歳という名前、一瞬考えて思い出す。思い出した瞬間、体中にピリッと電流が流れた気がした──。


「小学校のころ一緒に手を握ったり遊んだりしていた、千歳──だよね?」


 面影がある。幼なじみだった女の子──子供の時はよく一緒に遊んでいたっけ──。


 あの時より大人になって、きれいになった印象がある。

 こんなに美人になっていたのか──かなり感心した。思わず見とれてしまう。


 それから千歳はうっとりとした目で俺に近づいてくると、右手で頬に触れてきて優しくさすってきた。

 なめらかで、優しい感触の指が当たり、とても気持ち良い。



 左手も俺のほほに触れてきて、両手でほほをつかんだ状態に。そのまま俺の目をじっと見つめてくる。


「どうした千歳。ちょっと恥ずかしいよ」


 まじまじと見られるとドキッとしてしまう。千歳は、うっとりとした表情になりウィンクをしてくる。

 そして、俺の顔をゆっくりと自分の顔に近づけ始め──。


「あなたのこと、ずっと好きでした」


 そういって俺の唇を自分の唇に当てたのだ。キスというやつだ。

 突然のことに言葉を失い、頭が真っ白になる。まてまて、もう講義の時間だ。


 しかも初めての講義。いきなり変な誤解を与えたくないので、懸命に千歳から離れようともがくが千歳の力が予想外に強くどうすることもできない。



「何あれ、付き合ってるの?」


「すごい、熱々カップルじゃん」


 その間にも、周囲は俺たちに対して間違った印象を抱いてしまっている。まずい──こんなことをしていたら確実に誤解される。


 何とかしないと。懸命にもがいて距離を取ろうとするが、どうすることもできない。


 放そうとしても離れない千歳。それどころか──。


 唇にむにょんとした感触が感じられたかと思うと、柔らかくて生暖かい物体が口の中に入ってくる。

 生暖かい物体は口の裏側や歯茎のあたりに執拗に触れてくる。


 まるで、俺の口の中の感触を感じたいといわんばかりに。すぐに理解した。これは、舌だ。



 なんと千歳は俺の口に舌を入れてきたのだ。口の中で俺の舌を使って何とか追い返そうとするが、うまくいかない。逆に千歳の舌は俺の舌を見つけた瞬間舌を絡めてくる。俺の舌の周りをうねうねと暴れまわり、口の中が千歳の舌に染まってしまいそうな感覚になる。


 さらに口の中に強引に唾液を送り込んでくる。どこか、甘さを感じさせる千歳の唾液。

 とりあえず、キスをやめさせよう。


 そう考え再び千歳から顔を離そうとするものの、予想以上に顔を固定する力が強く引きはがせない。さらに、豊満なおっぱいを押し付けてくる。


 そうしているうちに千歳はキスをやめ、顔を俺から離して見つめてくる。千歳は首を左に傾け、妖艶な笑みを浮かべた。


「ああ、幸せよ。あなた」


 初めてのキスに、思わず顔を真っ赤にしてしまう。千歳を見ながらぼーっとした気分になっていると──。


「オ、オホン」


 講師の人が気まずそうな表情でわざとらしく席をする。


「君たちが幸せに青春を送っているのは良―く理解できた。しかし、そういったことは二人っきりでいるときにやってくれないかな? ここは、みんなの場所でもあるんだし──」


 その言葉に、俺は表情を失ってしまう。すぐに頭を下げ、謝った。


「も、申し訳ありませんでした!」


 俺が頭を下げても、千歳は自信を持ったような笑みで周囲に視線を配っている。まるで、俺と一緒にいることに対して勝ち誇っているかのようだ。


 頭を下げた後、すぐに椅子に腰を下ろした。あまりの恥ずかしさに、顔から火が吹き出そうだ。


 最悪──。入学早々ほかの学生たちに変なイメージを持たれてしまった。千歳は、腕を組んできてから話しかけてくる。



「ふふっ、いいじゃない。これで周囲は私と 君が付き合っていると認めてくれるはずだわ。


「別に、付き合ってなんかいないし……」


 そうつぶやくと、すぐに視線を外して席に着いた。公衆の面前でキスをしていたという事実に恥ずかしさで思わず縮こまってしまう。


 オホンとわざと咳をしてノートを広げると、隣に千歳が座ってきた。


「一緒に講義受けましょ! あと、講義が終わったら一緒に帰りましょう? 話したいことがあるの」


「わかったよ……」

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