第三章 選ぶ者そして選ばれる者
第22話 彼女を景品にするカゾク
アーサーはすらりとした両足を、高価なテーブルの上に乗せて、悠々と組み替えた。
「あー、いきなり軟禁された時は、なんですかそれは~、って感じだったけど、慣れるもんだなぁ」
あてがわれた客室も、華美すぎず洗練された美しいシルエットの家具が揃っていて、アーサー好みだった。アルデンが戻ってきたら、侯爵にこの部屋の家具の店を、紹介してもらいたく思った。この空間がすっかりお気に入りになっている。
トントンと、部屋がノックされた。
本日二十回目を超える訪問者だった。大概の事は楽しく受け止め、歌の題材にしてしまうアーサーも、これには笑いが止まらなかった。
「ハハハハハ、どうぞ、開いてますよ」
扉が開いて、マックス嬢の何番目かの兄上が入ってきた。彼らはただ談笑しに来たわけではなく、国王が急に集めだした魔術師についてだとか、エルフ族についてなどの、情報を欲しがった。そして何を尋ねられても、アーサーには詳しく答えられない。魔術師の詰所の情報は、ほとんどが機密情報であり、これからも仲間と楽しく研究を続けていきたいアーサーにとっては、何を言われても秘密であった。
(それにしても、気が長くて紳士的な方々だなぁ。初めてここに来た時は、全員がムキムキだったから、俺の態度に腹を立てて、すぐに暴力沙汰に持ってくるかと思ってたけど、あくまで対話重視に交渉しようって腹か。人を見た目で判断してはダメだな~)
しかし二十回目は、さすがにアーサーにも堪えた。
アルデンが薬の材料を求めて屋敷を出て行ってから、しばらく経っている。窓の外はすっかり真っ暗で、賑わう居酒屋の明かりが、遠く揺れている。
アーサーから話題を変えることにした。
「家出中の妹さんは、心配しないの? 俺の偏見かもだけど、ここの領土は灯りが少ないし、広大な土地を持て余してて人民も少ないし、よく経済を回していけるよね」
回ってないと返ってきた。豊かに見えているだけだと言われた。
今この状態で、どこかから戦争をふっかけられたら、負けるかもしれないとも言われた。しかも、半笑いで言うのだから、冗談なのかわかりづらい。
(見栄を張らないのか。この国の王様も、俺たち魔術師を集めた本当の理由は、戦争に使えるか吟味するためなんだもんなぁ。まあ、使いこなせる奴いないと思うけど。俺たちがやってることって、生活が少しでも便利になるように、薬や道具の開発を進める……活動内容は、そんな規模だし。大きな爆弾並みの被害や、人を吹き飛ばすような大掛かりな魔術を使いこなせる奴なんてのは、めったにいないしな。寝起きで寝ぼけてるアルデンなら、暴発させて味方まで巻き込んじゃうけど)
一度だけ、アルデンの仕事に大きなミスが見つかり、アーサーは朝からアルデンと言い合いになったことがあった。寝起きで寝不足なアルデンは、頭が全く働いておらず、よくわからないままにアーサーを窓から放り飛ばしてしまったことがあった。
しかも、アルデン本人にその当時の記憶がないと言う。二度寝までしていた。
アーサーは、テーブルに乗せていた足を下ろして、再度マックス嬢を探さなくて良いのかと尋ねた。
すると、以前は三ヶ月間も家出されて、森で生活していたところを発見された話をされ、アーサーは爆笑した。
「ぜひマックス嬢にお会いしたいな。魔力が無くても、俺んちの地元で充分生きていけそうだ」
おだてついでに本音も混ぜてみたら、
「妹に興味が? では、アーサー殿も参加されますか?」
「え、何に~?」
「ふふふ。うちの妹は、
「え、だから、なんなの、いったい……」
常時笑顔だったアーサーが、このとき初めて顔が曇った。
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