第24話
「その、これは…。」
動転してしまって上手く弁明することが出来ない。俺もここではどうすることもできず、見守るしかない。ノエルも助けようとはせずにじっと九条院を見つめていた。
「黙ってちゃわかんないんだけど。別に怒ってるわけじゃくて、これはどういう意味って聞いてるだけ。」
決して本人はそう感じてはいないのだろうが、安田にこうして問い詰められるだけでもトラウマものだ。威圧的に見えてしまっても仕方がない。
あなた達とお友達になるために書いていたノートです。そう言えてしまえばどれだけ楽なことか、でもそれが出来ない。九条院はそれが出来なかったからこうして俺たちを頼ってきたのだ。友達が欲しいと、高校生活に悔いを残したくないと。
「九条院、頑張れ。」
独り言のように小さく呟いたその言葉は、きっと誰にも聞こえていなかっただろう。それでも彼女は一瞬こちらを見た気がした。確かに視線があった気がした。
次の瞬間、九条院は安田の手に持ったノートをそっと受け取り、真っすぐに安田を見つめた。そのあまりにも鋭い眼光に、安田は一歩後ろに後ずさった。クラスの女王「
「これはね、あなたたちとお友達になりたいと思って書いていたノートなの。」
その言葉にクラス中が沈黙した。もちろん俺も。驚かずにいられるか、九条院が自ら前に進んだのだ。口だけではなく、本当に前に進んだのだ。
少しの沈黙の後、クラスが再びざわつき始める。孤高を貫いてきて、他人を寄せ付けなかったお嬢様が友達になりたいと、そう言った。自らに手で新しい何かを掴みにいった。誰もが九条院の姿にくぎ付けになるのは必然のことだ。
「あたしたちと、友達になりたい?」
当の安田は困惑している。クラスの女王にとっても少し近寄りがたい存在、何を考えているのか分からない存在に放たれた言葉に実感が湧かないのだろう。
「そう、このノートは安田さんと友達になるためにどうすればいいか、どうやって話せばいいか、そんなことを自分で考えて綴ったノート。あたしが友達を作るために一生懸命書いてきたノート。」
ノートをぎゅっと抱きしめて尚も安田から目は離さない。この教室の中で今だけは確実に九条院が最も強い影響力を持っていた。それは間違いない。
「でももう必要は無くなったわ。今日であたしはあなたに伝えられる。踏みとどまり続けた一歩を踏み出せる。」
そう言うと九条院は勢いよく立ち上がって安田の手を握る。
――「だから、あたしと友達になってください。」
握りしめた手は少し震えているようにも見える。その震えはきっと間違いなく安田にも伝わっているはず。九条院は自らが出来ることをやり切った。後は相手がそれに応えるかどうか、それに限る。
真っすぐで淀みのない思いだって届かないことがある。いくら真剣に気持ちをぶつけても受け入れられないことだってある。愛の告白だって両想い同士でないと受け入れられない。さてクラスの女王はどう出るか。
「なにそれ。」
九条院に強く握られた手を安田はじっと見つめてそう言った。言葉だけを切り取るとややマイナスイメージな言葉、それでも九条院はただ前だけを見ていた。
「なにそれ、面白すぎじゃん。」
「えっ!?」
「あたしらなんかと友達になりたいからってそこまでするとか本当に面白すぎ!あたし面白い子大好きなんだよね。」
基本的に表情が変わらない安田が珍しく笑った。それを見て九条院の表情の雲が晴れる。
「本当に!?ってことは…。」
「うん、あたしたち友達になろう。」
そう言って安田はもう片方の手で九条院の手を覆う。
「てか九条院さん、普段はめっちゃ話しかけんなオーラムンムンだったから、こっちが気遣ってたんだよ。あたしも九条院さんと仲良くしたかったし。」
「ただ目つきが悪かっただけよ…。誤解させてたなら悪かったわ。」
「目つきって…九条院さん、いや祥子はホント面白いな。」
聞きました今?安田さんてばナチュラルに名前呼びに変更してますよ。これだからリア充は恐ろしい。
「てか立ち話してたら喉乾いちゃった。祥子、凛香。なんか飲み物買いに行こう。」
「はぁーい。」
「…うん!」
気の抜けた三ツ石の返事に九条院も続く。教室から出ていくタイミングで九条院は俺に向かって舌を出してあかんべーをした。友達がいない俺に当てつけか?可愛いけど。
それでも、慣れないながらも新しい関係を切り開いていった彼女は自然と輝いて見えた。
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