第13話
「ふー、危なかったです。」
トイレから出てきたノエルはそう言いながらため息をついた。一緒に付いてきていた咲良も同伴している。
「間に合って良かったな。次からは一人で行けそうか?」
「はい!界人、ありがとうございました。」
ペコリとノエルがお辞儀する。こういところは意外と律儀なんだよなぁ。
「そう言えばノエちゃん、部活動とかどうするの?」
「うぅん?」
咲良がいとも自然にこぼした「ノエちゃん」。俺はこういうところを見逃さないぞ。
「何ですか界人?そんな変な顔して。」
「いやこれが真顔なんだが…ってお前らいつの間にそんなに仲良くなったの?」
最初の自己紹介からこの二人が話しているところは見たことがなかった。実は二人は知り合いだったとか?そんな憶測が頭をよぎる。
「女子トイレで話して、ある程度は仲良しになったよ。ねーノエちゃん?」
「はい!妃織っ!」
二人でニコニコ笑い合いながら手を繋いですらいる。女子のコミュニケーション能力って怖い。トイレ一緒に行くだけで手まで繋ぐのかよ。
「そうか、まぁ仲良くなったのは良いことだな。うん。で、ノエルは部活とか入るのかよ。俺はバイトが忙しいしやってないけど。」
「私も同じだなぁ。バイトだったり…、色々あったりして。」
色々って何だろう。夜の男遊びだろうか、気になってしまう。
「そうですかぁ、お二人とも入っていないのでしたら私も別にいいですかね。家では界人…ん、うぅー。んっ!」
余計なことを口走りそうだたったのですぐさま口を塞ぐ。こんなところで一緒に住んでいるなんて知られたら大変だ。
「何やってるの二人で…。」
「ん?背後からクロロホルムキメる練習?」
「そんな物騒な練習こんなところでしないでよ…」
咲良が怪訝な表情でこちらを見てくる。まずい、咲良の中の俺がどんどん変な奴みたいになってしまう。主にノエルのせいで。
「部活って言ってもいろいろあるしな。ほらここら辺にも部員募集の張り紙がいっぱいあるぞ。」
話を逸らすように部員募集の掲示板の前に立つ。
「なるほど…、サッカー部マネージャー募集、演劇部サポート役募集、オカルト研究部部員募集…色々な張り紙がありますね。」
真剣な眼差しで張り紙と睨めっこする。先ほどはああ言ったが、ノエルとしては部活に入って青春する。そういった体験もこの高校生活に求めているものなのだろう。
「あ、なんですこれ?サンタクロース研究会?」
掲示板の端の方に剝がれかけている小さな張り紙を見つける。「サンタクロース研究会」とでかでかと書かれており、独特なサンタクロースのイラストも一緒に描かれている。
「へーこんなのもあるんだね。私初めて見たなぁ。」
「俺もだ、物好きな連中もいるもんだな。」
名前通り考えるならばサンタクロースを研究する会、ということだが、高校生にもなってそんなことを真剣に考えている人間がいるとはな。
「へぇー。」
「あのぅ、ノエル?」
嫌な予感がしてノエルの顔を覗き込む。サンタクロースは瞳をサファイアの宝石の如くキラキラと輝かせていた。
「ノエル、興味あったりする?」
「べ、別に興味なんてないですよっ!サンタクロースなんて研究する必要ないじゃないですかっ!」
そう聞かれたのが恥ずかしかったのか、ノエルはあわあわと否定し始める。まぁサンタクロース本人からするとその感覚は間違ってはいないのかもしれない。
「でも今時サンタさんなんて本気でいるなんて信じてる人いるんだね。」
「それは分かりませんよ?サンタさんは本当にいるかもしれないです!」
ノエルが今度はサンタクロース肯定派に回る。忙しい奴だ。
「まぁ何はともあれ、別にこんな良く分からない部活にわざわざ行くことないんじゃない…。」
その瞬間、俺の背後に何か悪寒が感じた。後ろから縛り付けるような視線が俺を襲う。
「それ、本気で言ってるぅ?」
「ひぃっ!」
背後から囁かれた声、暖かな吐息が首筋を伝わってむずむずする。
「有り得ない…」
あまりの突然の登場に俺を含めてノエルと咲良ですら固まっている。
「あ、あの…有り得ないって」
「あり得ないったらあり得ないよっ!」
「ひぇぇぇえ!!」
突然大声で叫ばれてこちらも大声で悲鳴をあげてしまう。サッと振り向くと、そこには先ほどの変な雰囲気とは異なり、茶色い艶やかな髪を綺麗に伸ばした美少女が俺に掴みかかっていた。
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