第7話
「それじゃあ行ってくるけど、お前本当に大丈夫か?」
「何を言います。私だってもう大人の女性!お留守番くらいどうってことないですよ!」
胸をポンポンと叩くノエルだが、正直心配でならない。でもこんなやつを学校に連れていくわけにもいけないので俺は渋々彼女に留守番を頼むことにした。
「じゃあ、行ってきまーす。」
「いってらっしゃーい!」
ノエルは手を振って見送ってくれる。なんだかこういうやり取りは新鮮でちょっと気恥ずかしい。傍から見れば同棲している恋人みたいに見えるのだろうか。
今日は高校の終了式。2学期を締めくくる登校日で明日からは念願の冬休みということになる。
冬休みと言っても正直やることは無くて家でゴロゴロするか、バイトに行くかの二択しかない。誰かのお陰で食費の出費が増えそうだからシフトを増やしてもらわないとな。
学校と行っても俺はほとんどの時間を一人で過ごしている。なんでかって?友達がいないからである。
一人ということに慣れすぎたせいか今更友人を作る気にはあまり慣れず、きっとこのままの感じで学校は卒業していくのだろう。小学校も中学校もそうだった。過度な期待はしないで俺は俺のリズムで生きていく。そう決めたのだ。
従って、教室ではこうやって一人読書にふける時間が長くなる。1年間も通っていたら好きな作家の長編シリーズを見事に読破してしまった。最近は新しい作家を模索しながら適当に図書室にある本を借りて読んでいる。こういう時間も案外悪くないものだ。
ちょんちょんと俺の肩をつつく感触がする。が気のせいだっただろうか手元の文庫本に目をやる。俺の読書タイムを妨害する奴などまさかこの学校にいるはずなんて無いのだから。
それでも強めに肩を叩かれているのは気のせいだろうか。まぁこの学校で俺に話しかけてくる物好きなんて一人しかいない。
「ちょっとー無視しないでよー。」
「あ、ごめん気づかなったー。」
「いや絶対嘘だよね…。」
がっつり無視されてしょぼくれている少女はセミロングに伸ばした髪をくるくると弄る。
「それで、何か用?」
「あーいや明日のシフトのことなんだけど…。」
「またですか…。」
「ごめんって本当に!今度埋め合わせするから!」
あわあわと手を合わせて謝罪の意を表する少女、
「別にいいけど。最近シフト増やそうと思ってたし。」
「本当?ありがとう名執くん!」
ぱぁっと明るい笑顔をまき散らす。こうして数々の男を弄んできているのだろう。救いようのないビッチだ。
「でもシフト交換ならもう少し早く言ってくれ。俺は基本暇だけど、いつでもってわけにはいかないからな。」
「ごめんね、急用が入っちゃって。」
「はいはいそうですか。」
何の用事だとか不躾なことは聞かない。どうせ昨日も彼氏の一人や二人連れ込んでお楽しみだったんだろう。聞くだけこっちが不快になる。
「じゃあ今までのお詫びに何かご馳走でもしようか?」
「なっ、咲良とうとう俺にまで…。」
「俺にまでって何?もしかして名執くん、何か勘違いしてるんじゃないの?」
「いや易々と男を食事に誘う奴に勘違いも何も…。」
「何か言った?」
「い、いえ…。」
その虫も殺さないような笑顔が逆に怖い。咲良を本気で怒らした日には骨も残らないだろう。
「でも、名執くんこそガード硬過ぎだよ。こうやってお礼するって言ってるのに一回も来てくれたことないよね。」
「別にわざわざお礼されるようなことじゃないだろ。恩を売りたいわけじゃないんだし気にするな。」
正直いくらバイトで一緒とはいえこれ以上ビッチに関わりたくはない。触らぬビッチに祟りなしだ。
「ふーん、名執くんは相変わらずちょっと変わってるよね。一人暮らしだし忙しいのかな。」
「まぁ確かに一人…暮らし?ではあるけど…。」
「何で疑問形?」
「え?あぁちょっとよく家で分身してるから。」
「分身!?」
適当な噓をついてしまった。今は一人暮らしではなく、銀髪美少女と同棲してまーす。何ていったら人のことビッチなんて言ってられなくなってしまう。
「でもこの歳で一人暮らしなんてほんと尊敬だよ。私なんてまだ一人で色々とやるなんて想像も出来ないし。」
「別に好きで一人暮らししてるわけじゃないけどな。俺だって誰かに世話してもらえるならそれがいい。」
やらなければいけないから一人でやっているわけで、誰かがやってくれるなら是非代わってもらいたいところだ。主に今頃家でゴロゴロしているサンタクロースにだが。
「もし一人暮らしで困ったことがあったら言ってね。同じバイトのよしみだから出来るだけ力になるし。」
「おお。分かったよ。」
そう言って咲良は元いた女子グループに戻っていく。こういうところが数々の男子を篭絡しているのか、と恨み節を述べつつも、案外悪い奴でもないのかともひっそりと思った。
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