第5話
「おい…まじかよ。」
「どうです?これで料理完了です!」
自慢げにノエルは鼻を鳴らす。魔法で料理までできるなんてサンタクロースはチート能力者か何かなのだろうか。
「ほらほら界人、食べちゃいましょう。」
ノエルはるんるんでカレーを盛り付け始める。こうして誰かがキッチンに立っている光景なんて久しぶりに見た。なんだか懐かしいような新鮮なような不思議な感覚に包まれる。
「いただきまーす。」
「ん、美味い…な。」
「そうでしょうそうでしょう!これが魔法の力です。」
魔法で作られたからどんな幾何学的な味が待っているかと思ったが、その味はまさに家庭的なハウスカレー。おふくろの味というものが存在するのならまさにこういうものなのかと思ってしまうほどだった。
「でもその魔法は便利だな。これなら料理も手間いらずじゃん。」
調理時間は約一分。それでこのレベルが出せるならば彼女を招き入れたのもそれだけで意味があるものになってくる。
「そう上手い話でもないんですよ。」
「何かまずいことでもあるのか?」
「実はこの料理魔法、凄い便利なんですけど消費魔力が半端じゃないんですよ。今日は見え張って使いましたが、普段使いはしたくないものです。」
「そんなに疲れるものなのか。」
「はい、50メートル走ダッシュで5本走るくらいには。」
「それは確かに嫌だな。」
運動大嫌い人間の俺からするとそんな苦行は是非ともごめん被りたい。仕方はないが無理強いは出来ないだろう。
「それで自称サンタクロースのお前はこんな日にこんなことしてていいのかよ。」
「どういうことれふかぁ?」
カレーを頬張りながらポカンとした表情を浮かべる。
「今日はクリスマスイブだぞ。俺なんかにかまけてて大丈夫なのか?」
そう、今日はクリスマスとはいってもクリスマスイブ。そして今はいわゆる聖夜と呼ばれる時間帯だ。
きっと今頃、世に言うリア充とやらは恋人同士で愛を確かめ合いながら甘い夜を過ごすのだろう。
そして一方、そんなことは全く知らない無垢な子供たちにとって、クリスマスイブの夜はサンタさんがプレゼントを届けに来てくれる夜だ。良い子にしていれば寝ている間にサンタさんが欲しいプレゼントを届けてくれる。そんな期待を胸に子供たちはこのクリスマスイブの夜を迎えているのだ。
しかし俺の目の前にいる白銀のサンタクロースはうちに来てからゴロゴロしているだけでサンタクロースとしての仕事をしているようには到底思えない。もしかしてサンタクロースの業界も働き改革が起こったのだろうか。夜の残業は無くなったのだろうか。
「あーそのことですね。」
カレーを完食してごちそうさまをすると、ノエルは勢いよく立ち上がって再びサンタクロースの帽子をかぶる。
「そろそろ時間ですね。せっかくだから界人も一緒に行きますか?」
「行くってどこに。」
「それは着いてからのお楽しみです。」
徐にそう言うと、ノエルは何やら再び魔法を発動させて大きな箱のような物体を出現させた。
「って、でかっ!!なんだよこれ!」
「何ってそりに決まってるでしょう。」
その物体をまじまじと見てみると、ちゃんと座席が二人分あってそりと言われればそりなのかもしれない。
「ちゃんとサンタさんっぽいところもあるのな。」
「そりゃあサンタさんですからっ!さぁ出ますよ!」
「うおぁ!」
ノエルはそう言うと俺の手を引っ張ってそりに乗せた。
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