第3話
「証拠を見せてあげます。」
思考を先回りしたかのようにそう言い張る少女。少女は人差し指を立ててあざとくウインクする。くるくるっと人差し指を回すと小さな青い星が俺を囲うように無数に出現した。
「な、なんだこりゃあ!」
「ふーん。驚きましたか?これがサンタクロースである私が持つ魔法の力です!」
「魔法の力って…。」
信じがたいが確かに俺は現在進行形で彼女の言う魔法とやらを体感している。あたりを回り続ける星は穏やかに光ってどこか心地よい。触ってみようと手を星に近づけてみると、その瞬間星は弾けるように消えてしまった。
「あー消えちゃった。」
「おさわりは禁止ですよ。これはあくまで観賞用の魔法なのですから。」
「観賞用ってサーカスかよ…。」
「でもこれで私のことをサンタクロースと認めてくれましたか?ねえねえ。」
上目遣いでそう尋ねてくる。
「まぁ確かにこの目で見たものは見た。認めてやらないこともないけど、でもサンタクロースって一体何だ?」
その質問に少女は意味わからないみたいな顔をする。
「サンタクロースはサンタクロースですよ。良い子にプレゼントを届ける存在です。それ以上でも以下でもありません。」
まあそうだよね。ため息をゆっくりと吐く。でもそうすると一つ疑問が浮かんだ。
「じゃあ何で俺の家の中にいたんだよ。別にプレゼントなんて願ってないぞ。」
生まれてこの方プレゼントなんて望んだことなんてない。欲しいのはゆっくりする時間くらいのものだ。
「いいや、貴方は、
「六年前?」
六年前ともなると俺はまだ小学生だ。小学生の頃に願ったことなんて…。
「…はっ!?」
「思い出しましたか?」
どこか落ち着いた妖艶な笑みを浮かべた少女はゆっくりとこちらにすり寄ってくる。吐く息が感じられるほどに近くづいた少女は俺の耳元に顔を寄せる。
そうだ、あの時の俺は確かに願った一人でいる自分の孤独を憎むように…。
――「家族が欲しい。」
そう囁かれた言葉は全身に寒気にも似た不思議な感覚を運んだ。
少女は耳元から顔を離して満面の笑みを浮かべる。魔法で作ったのだろうか、頭にはいつの間にか赤いリボンが可愛く結ばれていた。
「私が、家族になってあげます!」
サンタコスの少女は自らにリボンを添えて、家族になると、そう言ってきたのだ。
「……ごめん、ちょっと何言ってるか分からない。」
「だーかーらっ!私が家族になってあげるって言っているんですよ。界人の!」
「え、家族ってファミリーってことだよね?ファミリーになるの?俺と、お前が。」
「そうですよ。今日から私たちはファミリーですっ!」
さも当たり前のことを言っているかのような口ぶりである。そんな少女の調子にこちらが狂わされそうだ。
「俺たち血繋がってないじゃん。」
「そんなの関係ねぇですよ!家族に血の繋がりなんて!」
再び勢い余って床を強く叩く。だから近所迷惑だっつうの。
「そもそも結婚すれば血が繋がってなくても家族ですよね。そういうわけです。」
「いや赤の他人だし。」
「酷いですっ!」
露骨に悲しそうな顔をする。表情の変化がうるさいサンタさんのようだ。
「界人、強がらなくてもいいんですよ。小さいアパートに一人暮らし。年頃の男子高校生とはいえ寂しくないわけないじゃないですか。」
今度は諭すように優しい口調で話しかけてくる。こうも急に雰囲気を変えられるとドキッとしてしまうのは男の性なのだろうか。
「別に、そんなんじゃ…。」
「私は界人、あなたの願いを受けてここに来たのです。私がここに来たということは界人が本心ではまだ家族が欲しいと思っているということ。サンタクロースに誤魔化しは効きませんよ。」
優しく微笑む少女にどうしてだか吸い寄せられてしまう。これは彼女の美貌によるものなのか、それとも…。
「俺は…。」
ゆっくりと言葉に表す。彼女に、ありのままの気持ちを。
「俺は本当の家族が欲しいんだ。仮初でも偽物でもない、本物の家族が。」
「はい。」
少女は俺の言葉に口を挟むわけでもなく、ただ静かに次の言葉を待っていた。
「でも、俺は本物の家族とやらを知らない。何が正しくて、何が間違っているかを。」
小さいころから持ち合わせていた孤独は、俺に家族という概念を教えてはくれなかった。彼女の言う家族も、結局何なのかがまだ分かってはいない。
「でも、お前はそれを与えてくれるのか。何も知らない俺に。」
「はい。私はサンタクロースです。それ以上でも以下でもありません。」
きっぱりとそう答える少女。普通だったら切り捨ててしまうような提案も、きっと今日なら受け入れてしまう。これがクリスマスの魔法なのだろうか。目の前の少女に少しでも期待してしまう自分がいた。
「狭いけど、それでもいいなら…。」
「はいっ!ありがとうございます!」
お淑やかな雰囲気をかなぐり捨てて、今度はぱぁっと太陽のような笑顔になる少女。その笑顔はどこか俺の心のわだかまりを溶かしてくれる気がした。
「そう言えばお前、名前は?」
サンタコスの少女としか認識していなかったため名前を聞き忘れていた。それ以前にツッコミどころが多すぎて。
少女は優しく微笑んで、何もない小さな部屋に聖夜の明かりを灯した。
「私は
白銀のサンタクロースは、こうして俺の最初で最後の家族となった。
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