第2話

「ん?何でこうなった…?」


 少女の美しさで忘れそうになっていたがこの状態は普通ではない。見知らぬ女が、変な恰好をして、勝手に知らない男の家に転がり込んでいる。これだけでもうはっきりと異常事態ということが分かる。

 てか、どうやってこの家に侵入したのだろうか。鍵はしっかり掛かっていたし、いくら格安のボロアパートとはいえ他のところから侵入できるとも考え辛い。このまま警察に突き出してやってもいいが、その前に多少の事情聴取が必要だろう。

 第一、ここまで気持ちよさそうに寝ている子を無理やり起こしてこの寒い中に警察に突き出すというのもなんだか気が引ける。ここまできたらゆっくりと寝てもらって全快したところで彼女に事情を聴こう。そうしよう。決して可愛い寝顔を見ていたいからではない。


「ん、む…。はわぁぁ。」


 家に帰ってきてから二時間弱、少女は大あくびをしながらゆっくりと体を起こす。着崩れたサンタコスチュームの間から若干胸元が見えてしまい目のやり場に困る。


「ようやく起きた?」

「ん…、んんー。」


 まだ寝ぼけているのだろうか、半開した瞳の焦点があまり定まっていない。


「ん、ちょこ。」

「へ?チョコ?」

「ちょこ。」


 うとうとしながらそう連呼する少女。チョコとはチョコレートのことだろうか。確か備蓄しているお菓子の中にチョコレートもあった気がする。取りあえず小さいチョコレートを手渡すとすぐさま口の中に放り込んだ。もぐもぐした後に少女は突然目を見開いた。


「ん、甘―いぃぃ!!」

「うわぁ。ビックリしたぁ。」


 突然大きな声で叫びだすから肩がビクッとしてしまう。

 少女は肩を跳ねさせた俺をくりくりとした大きな瞳でじっと見つめて、やがてニコッと微笑む。


「おはようございます!」

「は、はぁ。おはよう?ございます…。」


 もう時刻は夜の七時だというのにおはようございますというのはなんか変な感じだ。


「そして、メリークリスマス!」


 大きく手を広げて楽しそうに微笑む。あどけない少女の笑顔はそれだけで温かく、凍っている心が溶かされてしまいそうだ。


「はいはいメリークリスマス。それで、お前はなんなの?」


 聞くことを聞くために適当に挨拶を受け流す。少女は若干不満だったようでぷっくりと頬っぺたを膨らませている。


「ちょっと、素っ気なさすぎませんかね?折角サンタクロースがわざわざ来てあげているというのにその態度は!」

「サンタクロース?ただの不審者じゃなくて?」

「不審者なんかじゃないです!」


 ゴンゴン床に拳をぶつけて抗議している。近所迷惑だからやめてほしい。


「私は本物のサンタクロースです。正真正銘、唯一無二の。」


 美しい白銀の髪を棚引かせて自慢げに語る。確かに見た目はそれっぽいが未だ俺にはサンタコスした変質者にしか見えない。


「証拠を見せてあげます。」


 そんなことを宣言しながら、少女は意気揚々と立ち上がった。

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