今年のクリスマスプレゼントはサンタクロースでした。
雲類鷲(うるわし)
プロローグ
第1話
――あなたの欲しいものは何ですか?
そんな問いが聞こえた気がした。窓の外を眺めると辺りには一面の銀世界が広がっていて、これ見よがしに人々を冬へといざなっていく。エアコンが故障気味だからだろうかやけに体が肌寒い。こんな日は部屋中を暖かくして誰かと語らったり、遊んだり。そうして過ごすのがセオリーというものなのだろうが、自分にはそんなものは一つたりとも持ち合わせてはいなかった。
耳を澄ますと子供がはしゃぐ声、自分と同年代くらいの子だろうか、父親と母親に手をつながれて楽しそうに歩き回っている。そんな声が煩わしく感じて布団に潜り込む。
世間はクリスマス一色、街中は目がくらんでしまうほどの派手なイルミネーションによって装飾されており、学校からの下校でそんな明るい雰囲気に包まれてしまうのが嫌だった。一人こうしてクリスマスを過ごすだけならば、そんなものは特別でも何でもないただやかましい日だけだ。
――あなたの欲しいものは何ですか?
リンリンと鈴の音が聞こえる。こんな問いをされても意味がないのに。本当に欲しいものというものは決して自分では手に入らないものなのだから、だから決して叶うことない願いを願ったって意味がない。そう思っていた。
リンリンという鈴の音が近づいてきている気がした。サンタクロースがプレゼントでも配っているのだろうか、信じてもいないような存在を信じてしまうほど耄碌はしていない。そう心の中で強がりながらも少しの想いを馳せる。
でも、もし本当に、本当にサンタクロースがいるのなら。願いを馳せて、欲しかったプレゼントが届くのならば。
――あなたの欲しいものは何ですか?
「僕は、家族が欲しい。」
そんな願いが叶うはずもなく、一人の少年のクリスマスは独りぼっちのまま過ぎていった。
◆◆◆
真っ白い雪が頭の上から容赦なく降り注いでいく。冷たい感触が頭の上から足のつま先までじっくりと沁み込んでいくようで、俺は雪が嫌いだった。雪が降れば交通網が麻痺して登下校に不便が生じる。雪が綺麗だなんて言い出す連中もいるが、こっちからしてみればただの気候現象の一つ、雨と大して変わらないようなものだ。
今日は数年ぶりのホワイトクリスマスになるそうだ。クリスマスなんて取るに足らない日、周りが少々騒がしくなるだけの日だと思っているから、あまり気には留めていないが。
ガチャっと扉を開く、安物のアパートには今はやりのオートロックなるものなどは付いておらず、手動で鍵を回さなければならない。寒さで手が凍えて鍵を持つ手の感触がもうほとんど失われていた。こうなるのだったら手袋を持参しておけばよかったと後悔の念を抱く。
扉は開くも特に何も言わない。「ただいま」と言っても「おかえり」と返してくれる人がいないからだ。いつも独りぼっち。学園でも、家でも。もう慣れっこだから特に何とも思わないが、ふとした時にどうしようもない寂しさを覚えるときがある。そんな寂しさにおかしくなって余計なことを考えてしまったクリスマスもあったっけ。そう思っていた時だった、彼女と出会ったのは。
「おかえりなさい!」
「……は?」
誰もいないはずの部屋に、一人の少女が座り込んでいた。美しい、真っ白な髪をした一人の少女が。
まるで幻想の世界に降り立った天使のようなそれは、頭の上からちょこんと雪をかぶっていて若干ブルブル震えている。そして何より目を引いたのはその服装、頭には赤を基調として白いポンポンが付いた三角帽。服も赤をベースとして白いラインが時折入っている暖かそうな恰好、でもなぜかミニスカートを履いていて、そこだけ真っ白い肌が露になっていた。
「サンタ、クロース…?」
その姿は端から端までサンタクロースだった。コスプレイヤー?のようにも思えたがそれにしても完成度が高すぎる。
「はい、サンタクロースです。」
「は、はい!?」
この子今はいって言ったか?ブルブル震えながらも確かにこの女の子はサンタクロースですと言った。じゃあサンタクロースなのだろう。ってなるわけあるか。
「う…ざぶい、です…。」
サンタクロースの格好をした自称サンタクロースは頭に雪を乗せながらばったりと倒れた。
「お、おい!大丈夫か!」
寒さにやられたのだろう、力なく倒れた少女を介抱する。女の子の身体に触れるなんてほとんど記憶にないため、何をすればいいか分からないが、取りあえず体の雪を払って部屋にある自分の暖かめの服を着せることにした。
「ん…うぅ…あったかい、です…。」
どうにか布団まで運んで一段落つく。サンタコスの少女はむにゃむにゃ言いながら寝息を立てている。どうやら体調の問題はないらしい。寝返りを打つ少女の姿を見てうっかり見とれてしまいそうになる。きれいな白銀の髪に小さな顔、まるでこの世のものとは思えない可憐さを纏っている。
「ん?何でこうなった…?」
俺は静かに寝静まっていく不思議な少女を横目に、思わずそう独りごちてしまった。
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