121 直接対決延長戦7


 アーティファクトの剣で増強されたフレドリクの最強魔法【サンダーボルト】は、フィリップが床から生やした2本のツララに吸収されて破られたのだから、フレドリクも呆けてしまっている。


「どうして真っ直ぐ進まないんだ……」

「あ~……雷ってのは、高くて鋭い物に落ちるんだよね~。そんなのも知らないの? あ、知るわけないか」

「いやいや、この魔法を外で見せたのは初めてだぞ! どうしてフィリップが知ってるんだ!?」

「それは~……兄貴たちがドラゴンと戦っているところを見学してたからだよ。アレはなかなか面白かったな~」


 乙女ゲームの知識を披露しかけたフィリップは、フレドリクたちをストーキングをしていた頃の話を出して事無きを得る。


「ほら? まだ何かやるんでしょ? カイの【狂化】辺りかな~??」

「マズイ! フィリップのヤツ知ってるぞ! 急げ!!」

「あ、やっぱりそれだったんだ~。おお~」


 言い当てられたフレドリクが焦りながら指示を出すと、フィリップを囲むように柱が何本も生えて来た。ヨーセフの隠していた土魔法だ。

 でも、フィリップは檻の中に閉じ込められてものん気なモノ。けっこうな魔力量だと拍手までしている。


「ぐるああぁぁ~~~!!」


 その檻の中にはカイが1人残っており、狂ったような雄叫びをあげる。【狂化】とは、自身の理性を排除する代わりに体のリミッターを外す技なのだから、制御不能なのだ。

 いまのカイは敵味方関係なく攻撃をしてしまうので、檻に入れて戦わせるのがフレドリクの用意した作戦みたいだけど、フィリップそっちのけで柱を壊そうとしている。


「お~い? 鬼さんこっちだ~。手の鳴るほうへ~♪」

「ぐるあぁ!!」


 なので、フィリップが呼んだらロックオン。カイは大剣を引き摺りながら走り出した。


「よっと……いいとこ身体能力は倍ってところかな? ほっ!」


 カイのめちゃくちゃな剣筋も、フィリップの素早さには適わない。しっかり見て、体勢を崩さないように避け続ける。


「もうちょっと楽しめるかと思っていたけど、パーティ相手のほうがまだマシだね。退場だ~!」

「ぐはああ……」


 カイの奥の手は、フィリップのお眼鏡に適わず。フィリップはカイを蹴り飛ばして柱に叩き付けると、残像を残して追いつき、左拳だけでボコボコに。

 一瞬にして数十発も鎧の上から叩けば柱は折れてしまい、最後の蹴りでカイは地面と平行に飛んで、訓練場の壁に叩き付けられたのであった。



「あ~あ……やりすぎちゃったかな?」

「モンス! カイの手当ては頼んだ!!」

「はやっ!?」


 フィリップがカイに目をやっていると、フレドリクの突撃。先程のカイより倍以上速いのでは、フィリップも防御が遅れただけでなく、その力に押されて檻の中に戻されてしまった。


「セ、セーフ! 折れてな~い」


 そんな攻撃なのに、フィリップはサビた剣の心配。フレドリクの剣を受けてしまったけど、後ろに跳んだからギリギリ折れなかったと喜んでいる。


「まだそんな剣の心配をしているのか? 自分の心配をしろ!!」

「わっ!? 速いって!!」


 フィリップがのん気にしていても、フレドリクは攻撃の手を緩めない。最速の動きで斬り付けてフィリップを通り過ぎる。そして、柱を蹴って切り返し。一瞬で戻って来てフィリップを斬って通り過ぎるを繰り返している。

 フレドリクは、密閉された箱の中のスーパーボール状態。フィリップも避けることに集中するしかない。ぴょんぴょん跳ね回っている。


「よし! 慣れた!!」


 いや、けっこう早くに適応。足を止めて、フレドリクを凝視した。


「よっと!」


 ここで必殺技の炸裂……と言いたかったが、フィリップはひょいっと避けて足を引っ掛けただけ。それだけでフレドリクはゴロゴロと凄まじい速度で転がり、柱にぶつかって止まった。


「兄貴、大丈夫? 雷魔法の電気信号でムリヤリ筋肉を動かすのはいい線いってたけど、自爆技だから使わないほうがいいよ??」

「あ、あぁ……ぐぅぅ……」

「もう遅いか。プププ」


 フレドリクに近付いたフィリップは、フレドリクが痛みに苦しそうにしていても笑うだけ。その瞬間、土の柱が倒れて来たので後ろに跳んだ。


「メガネ君もやめときな。もう魔力少ないでしょ?」

「フレドリク殿下に近付くな~!」

「聞きゃしないね。雪だるマン召喚!」


 ヨーセフが柱の全てを空中に浮かしていたので、フィリップも防御重視。5メートルはある雪だるまを右に左に動かし体に柱を突き刺して、その都度氷魔法で固定。1本ずつ無力化する。


「ここで寝てたら危ないよ~? そ~れ!」


 そんなことしながらフィリップは、フレドリクを氷で作ったソリのような乗り物に乗せて力強く押した。


「くっ……ハァーハァー……」


 するとフレドリクは凄い速さでモンスの元へと向かい、無理の祟ったヨーセフは浮かせていた残りの柱を落とし、自身も膝から崩れ落ちるのであった。



「筋肉バカより兄貴を優先してやって。全身の筋肉ズタボロだよ」

「あ、ああ……」


 フレドリクたちの元へ走り寄ったフィリップは、モンスがどちらを治すか悩んでいたのでアドバイス。モンスも急いでフレドリクに回復魔法を使っている。

 それからフレドリクが体を起こせるぐらいまで回復したら、フィリップは半分に折れた剣を見せる。


「さっきの兄貴の無茶のおかげで、勇者の剣が折れちゃった。約束通り、ここからが本気だよ~?」


 とか言ってるけど、本当はヒビが入った程度。フィリップが手で折ってから持って来たのだが、誰1人気付けていない。


「もう降参する。ルイーゼも助けてくれ!」


 どう足掻いても勝てないと悟ったフレドリクは命乞い。ルイーゼはエステルとお茶してるだけなのに……


「まぁ兄貴と聖女ちゃんは生かしてもいいけど、その他は無理だな~……」

「な、何故だ? この兄が頭を下げているのだぞ??」

「僕、知ってるよ? この3人の部屋に聖女ちゃんが通ってるの。聖女ちゃんから誘ったのかもしれないけど、親友が兄貴を裏切っているなんて許せるわけがないじゃない? これは兄貴のために言ってるんだよ」


 愛してやまないルイーゼ元皇后が、3人と不貞を働いていたと知らされたフレドリクは、驚愕の表情をする……


「それは同意の上だ。夫の私がルイーゼと一緒にいる時間を一番長く取っているのだ」

「へ??」

「だから、ルイーゼとは皆で愛し合っているのだ」

「はあ~~~!?」


 いや、真面目な顔でフレドリクが爆弾発言するので、フィリップのほうが驚きすぎて変な声が出るのであった……

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