120 直接対決延長戦6


「そこを開けてください!!」


 カイを蹴り飛ばしたフィリップがゲラゲラ笑うなか、ヨーセフからの指示。フレドリクたちが振り返ると、ヨーセフの頭上には2メートルを超える大きさの炎の玉があったので、カイとフレドリクは慌てて左右に跳んだ。


 その瞬間、炎の玉は凄い速度で飛び、「ドーーーンッ!」とフィリップに直撃した。


「やりすぎではないか?」


 爆風が落ち着き、辺りに煙りが立ち込めるなか、フレドリクはヨーセフの元に走り寄った。


「フィリップ君の魔法を見たでしょう? アレは私の上を行っています。虚を突かないと、当たるかどうかも怪しいです。それに、カイの剣も通じていなかったようですし」

「確かにそうだが……」

「アハハハハハ」


 フレドリクがフィリップの心配をしていると、笑い声が聞こえて来た。


「いいねいいね。その調子だよ。アハハハハハハ」


 フィリップだ。フィリップは雪だるま型の氷で防御していたから、炎の熱と相俟って、水蒸気で姿が見えなかっただけなのだ。


「なんて奴だ……本当に協力して戦わないとルイーゼを助けられないかもしれない……」


 ここでようやく、フレドリクも認識を改める。剣聖の称号を持つカイの剣も、賢者の称号を持つヨーセフの魔法でも傷ひとつ付けられないのだから……


「カイ、いけるか?」

「誰に言ってるんだ。あんな蹴り効かねぇよ」

「手加減されてるだけだ。そう思って戦うんだ」

「悪い。強がった。あいつ、最下層にいたドラゴンより強いぞ。俺たち全員が死力を尽くさないと勝てない」

「その切り替えの早さ、助かる。ならば、そう思って戦うぞ!」

「「「おう!」」」


 ここからは、フレドリクたちも本気。モンスの補助魔法をかけてもらう。


「やっと本気になってくれたか~。僕にどこまで通じるか楽しみだ」

「その余裕、いつまで続くかな? 行くぞ!」

「「おう!」」

「ファイアーアロー!!」


 フレドリクの合図と、カイ、モンスの返事と同時に、ヨーセフの放った炎の矢が飛ぶ。その矢は、フィリップは左手に氷を展開して払い飛ばした。


「ただの目眩ませだ」

「わかってるって!」


 そこに、パーティ最速のフレドリクのダッシュ斬り付け。フィリップはサビた剣で横からその剣を弾く。


「まだまだ~!」


 そこまで力を入れていなかったのか、フレドリクの剣はすぐ振るにはいい位置に戻っており、そこから横斬り。フィリップが後ろに跳んだところに、前に出ての縦斬り。

 その連続斬りに対応しようとフィリップが剣を出したところで、殺気が飛んで来た。


「喰らえ~~~!!」

「0点!!」


 カイだ。カイが大声あげて斬り付けていたので、フィリップはとんでもない速度でフレドリクの剣を弾き、カイの大剣にぶつけて動きを止めた。


「途中までよかったのに、筋肉バカはなんで大声出すかな~? そこは静かに斬り付けたらバレないでしょ??」

「だからなんだ!」

「アドバイスだよ。次からは気を付けて」

「ふ、ふざけやがって……」

「カイ! フィリップに乗せられるな。いまはチャンスだぞ!!」

「お、おお!」


 フィリップが接近戦の間合いにいるのだから、喋っているのはもったいない。フレドリクはカイを宥めて、左右からフィリップを斬り付ける。


「そうこなくっちゃ~」


 しかしその剣は、フィリップにかすることもしない。足捌きだけでかわし、たまに2人の剣を弾いてぶつけ合わせる。


「避けて!」


 その剣戟を抜けるように、ヨーセフの【ファイアーアロー】。さすがは幼馴染みということもあり、フレドリクとカイは息ピッタリに避けてフィリップに着弾。


「出し惜しみするなよな~」


 これも、先程と同じようにフィリップの氷魔法で払い除け、弱い魔法は使うなと愚痴っている。


「「もらった!!」」

「だから声出すなっての!」

「がはっ!?」

「ぐはっ!?」


 その止まった瞬間を狙って、フレドリクとカイは左右から同時斬り付け。だが、時間差で2人とも蹴り飛ばされて床に転がることになった。


「大丈夫ですか!? すぐに治します!!」


 2人が倒れてすぐに立ち上がらないので、モンスが駆け寄って回復魔法。ルイーゼほどではないが、素早く治療ができるらしい。

 その間、ヨーセフが【ファイアーアロー】を連発して時間稼ぎをしていたが、フィリップに素早く避けられて一発も当たらず。「もっと撃ってこい!」とか言ってるから、おちょくってるだけなのだろう。



「クソッ! なんだあの強さは!!」


 回復してもらって立ち上がったカイは、苛立ちが止まらない模様。フレドリクも同意見のようだ。


「いったいフィリップは、どうなってるんだろうな。ククク」


 ただし、弟の真の姿を知れて嬉しいのか、それとも笑うしかないのか笑みがこぼれている。


「笑っている場合か? このままじゃルイーゼがエステルに殺されてしまうぞ」

「わかっている。手の内を隠すのはここまでにしよう。カイも例の技を使ってくれ」

「アレか……巻き添えになるなよ」

「対応済みだ。行くぞ!」


 フレドリクを先頭に、後衛まで前進。それを見てフィリップはニヤニヤしている。


「作戦会議も長すぎるよ~?」

「フッ……その分、楽しませてやるから期待してろ」

「それは期待するなと聞こえるんだけど~?」

「喰らえ!」

「だから……」


 注意したことをフレドリクがまたやろうとしたので、フィリップが再び注意しようとした刹那、フレドリクは剣を前に出して叫ぶ。


「サンダーボルト!!」


 フレドリクの雷魔法だ。その出現位置は対象の真上であり、速度は他の魔法を凌駕する。さらに、アーティファクトの剣がフレドリクの攻撃力を増大させているから、威力も速度も数倍に膨れ上がっている。

 どんなに素早い敵でも避けられたことがないからこそ、フレドリクも見せ付けるように使ったのだ。


 突如、フィリップの頭上に稲光が起こり、雷鳴が轟いたのであっ……


「あっぶな……それがあるの忘れてたよ~」

「なっ……」


 残念無念。雷はフィリップの出した2本のツララに引き寄せられて、床に吸収されてしまうのであった。

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