118 直接対決延長戦4


 フレドリクと話し合っていた部屋を出たフィリップたちは、室内訓練場に向かう途中で給仕室に寄り道。そこで手に入れたティーセットをワゴンに乗せ、カイサとオーセに運ばせる。

 ここはフィリップにとって、勝手知ったる我が家。エステルと腕を組んで堂々と歩き、迷うことなく室内訓練場に着いた。


 そこで近くに置いてあった椅子やテーブルを集めてティータイム。カイサとオーセにも座るように言って、まったりとしている。


「「あの~……」」


 すると、エステルとイチャイチャしてるフィリップを見ていたカイサとオーセが声を出した。


「ん? あ、嫉妬してるの?」

「それはもう諦めてるので……」

「女癖の悪さは知ってるので……」

「じゃあなに??」


 フィリップは2人にけっこう酷いことを言われているけど、気にせず続けさせる。


「皇帝陛下たちと……間違えました。フレドリク殿下たちと、いまさらどうして決闘なんかするのですか?」

「危ないですよ? あの5人が、伝説級のドラゴンを倒したのは知ってますよね? せっかく皇位に就いたのに、それを捨てるなんて……」

「カイサとオーセは僕が負けると思ってるんだ~。えっちゃんはどう思う?」


 2人が心配しているので、エステルの意見を聞いてフィリップの強さを証明する。


「瞬殺とまでは言えませんが、それに近い結果になるかと。それほど陛下はお強いのですわよ」

「アハハ。信じてない顔だな~。ベッドでの僕の動き、2人とも『こんなの初めて~!』とか言ってたじゃん? それだけ僕は凄いんだよ」

「「それって関係あるかな~??」」

「大アリ……ってのは冗談で~す。怒っちゃや~よ? アハハ」


 どう考えても夜の話は関係ないので、フィリップはエステルに睨まれて笑ってる。なので、その睨みはカイサとオーセに向いた。


「その……わたくし、陛下としか経験がないのですが、そんなに違いますの?」


 エステルに睨まれたカイサとオーセはビビッたのも束の間、エステルが顔を赤くして質問しているので「ちょっとかわいい」とか思ってる。


「それはもう……指なんて、何本あるかわからないぐらいのテクニックですよ」

「私もそこまで経験は多くありませんけど、ダントツの一番です」

「そうなのですわね……つまり、他の男じゃ満足できなくなりますのね……」

「「はいっ!!」」


 そこからは、女性陣は超下世話な話。フィリップが目の前にいるのに、ああだこうだ言っているので、さすがのフィリップも引いている。自分のテクニックを、そこまで分析されたくないみたいだ。

 そんな感じで針のむしろになっていたら、フレドリクたちがやって来たので、フィリップは逃げるように立ち上がったのであった。



「おっそいよ~」

「フィリップが最強装備で来いと言うからだろ……何かあったのか?」


 フレドリクはフィリップの暗い顔に気付いたけど、フィリップも自分のテクニックを兄に言えないのでその質問には答えない。


「確かにいい装備だね。全員揃うと壮観だ~」


 フレドリクの装備は、豪華な作りの剣と、白を基調とした軽鎧。素早さ重視で、最強の攻撃力を持つアーティファクトの剣を当てやすくしているのだろう。

 カイの装備は、普通の剣より倍近く長くて幅の広い剣と、白いフルメイルの鎧。盾役と攻撃役を兼任できる装備だ。

 ヨーセフの装備は、白いローブと杖。どちらも魔法で強化されているから丈夫にできていて、杖は自身の攻撃魔法の威力を上げてくれるらしい。


 モンスの装備も、白いローブと杖。神殿長だから装飾が豪華に見られがちだが、全て補助アイテムなので寄付金の着服とかはしていない。この装備にも魔法の強化を施しているから丈夫で、杖は殴る用に持っているそうだ。

 ルイーゼの装備は、シスター風の白地の服と杖。こちらも魔法で強化済み。ただし、杖はアーティファクトなので攻撃力はかなり高く、一度だけ奇跡を起こせると言われている。


 そんな白い集団の前に立つのは、お揃いの黒い毛皮のコートを着た軍服のフィリップと、エロいノースリーブドレスのエステル。


「あ、ちょっと待って!」


 フィリップはダッシュで用具室を漁り、刃が潰されていない錆びた剣を持って戻って来た。


「ニヒヒ。準備完了っと」


 そしてエステルと腕を組み、軽く剣を振ってフレドリクに向けた。


「こちらには最強装備で来いと言っておいて、フィリップはそんな物を使うのか?」

「ハンデだよ。まぁこの勇者の剣を折ることができたら、本気を出そっかな~?」

「兵士の使い古しなのだから、そんなたいそうな剣ではないだろうが……我々をナメるのも大概にしろ」

「アハハ。いい顔になったね~。そんじゃあボチボチ始めますか。カイサ! オーセ! 開始の合図お願い!!」

「「は、はいっ!」」


 フレドリクをあおって怒りの顔を引き出したフィリップは、カイサとオーセを中央に立たせて、すぐに走って逃げるようにとも言っていた。


「では、いきますよ?」

「「はじめっ!」」


 カイサとオーセは指示通り開始を告げたらダッシュでテーブル席に。フィリップはエステルに手を離してもらい、一歩前に出た。


「準備はいい?」

「ええ。いつでもよろしくてよ」


 フレドリクたちは、フィリップの実力はたいしたことはないと思っているので、まだ構えてもいない。そこに、フィリップの魔法炸裂。


「いけ~~~!!」

「「「「なっ……」」」」


 フィリップの足下を支点とした太いツララが、フレドリクたち男衆に襲いかかる。その数は十数本。巨大なハリネズミのようなツララに虚を突かれたフレドリクたちは、全員同じ方向に跳んで避けるしかなかった。


「フッ……驚きはしたが、遅すぎる」

「兄貴~? そんなこと言ってていいの~??」

「事実だ……」

「キャーーー!!」

「ルイーゼ!?」


 余裕を見せていたフレドリクだが、ルイーゼの叫び声が聞こえては、すぐに余裕はなくなる。その視線の先には、ルイーゼが滑るようにエステルの元へと引っ張られているからだ。


「「「「いま助ける!!」」」」

「いかさないよ!!」

「「「「なんだこれ……」」」」


 4人が走り出す前に、またしてもフィリップの氷魔法。今度はあっという間に、訓練場の半分近くを塞ぐ巨大な壁が作られた。


「ヒロイン、大ピ~ンチ! えっちゃんは聖女ちゃんのことが大嫌いだから、殺さないか心配だな~」

「フィリップ! いますぐ氷をどけるんだ!!」

「アハハ。全員めっちゃキレてんじゃん。アハハハ」

「いい加減にしろ!!」

「アハハ。僕、兄貴たちとはガチでやりたかったんだよね~。それだけ怒っているなら楽しめそうだ」

「怪我ぐらい覚悟しろよ! 行くぞ!!」

「「「おお!」」」


 くして、クーデターは終結しているのに、無駄な兄弟喧嘩が始まるのであった……

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