117 直接対決延長戦3


「まだ聞きたいことある?」


 フィリップの皇帝になる理由にフレドリクが納得したようなので、次の質問をさせる。


「そうだな……今までの話で、フィリップが頭がいいのはわかった。手紙にあった肥料や新型馬車を作ったのも信じられる。だが、これだけ多くの民をどうやって集めたのかが、どうしてもわからない」

「そんなの簡単だよ。兄貴が嫌われることをするんだから、好かれるようにしただけ。正直言うと、その民を味方に付けることが、一番のネックだったんだよね~」

「私も正直言うと、それなりの支持があると思っていたから、10万人すら集まらないと思っていたぞ」

「アハハ。だろうね。アハハハ」


 久し振りに意気投合して2人は軽く笑い、フィリップが切り出す。


「もうひとつ正直に言うとね。僕、一瞬だけど、兄貴を暗殺しようと考えたんだよね~」

「私を止めようと思ったら、一番手っ取り早い方法ではあるな……弟にそう思われたのはショックだが……」

「ゴメンゴメン。一瞬だけだよ? すぐに思いとどまったから許して」

「私が好きだからか?」

「まぁそれもあるけど……」


 完璧イケメンのフレドリクに見詰められて「好き」と言われては、フィリップも少し照れてしまう。


「あの時の僕って、超最悪だったじゃん? 仮に誰にも知られず暗殺が成功しても、誰もついて来ないのは目に見えちゃって。僕が暗殺犯だと噂が流れただけで、民が怒って帝都に押し寄せていただろうから、やめたってのもあるね」

「その先を読む目、ちょっと気持ち悪いぞ?」

「それ、えっちゃんにも言われたよ? アハハハ」

「……」


 いまだにエステルのことが嫌いなフレドリクなので、同じことを考えていたのではフィリップのように笑えない。


「だから、時間をかけるしか方法がなかった。それで何人死のうとね」

「いくら死者を出してもか……」

「どれが死者数を減らせるかは悩んだよ。何もしなければ五千万人、暗殺しても近い数字。2年かけて二千万人……天秤にかけたら、これしかなかった」

「そうか……」


 フィリップの辛そうな顔を見て、フレドリクもそれしか言えない。


「でも、やりようによっては死者数を減らせた。肥料を作って農地を増やし、元奴隷を再雇用したり他所から連れて来たりね。めちゃくちゃ大変だったよ~」


 この苦労話にはフレドリクも同じ思いをしたから頷くが、エステルは違う。


「何が大変なのですの。大変だったのは、お父様筆頭にわたくしたちですわ。陛下は寝てばかり、遊んでばかりでしたわよね?」

「それは言わないでよ~」


 不満が爆発。そのせいで、フレドリクも「噓つかれた?」って顔になってる。


「てか、僕が辺境泊領にいると知られたら、謀反の疑いがあると思われて、兄貴たちが潰しに来てたんだよ。だからバレないように隠れてたの~」

「それなら書類仕事ぐらいしてもよろしくなくて? 夜遊びばかりしてましたよね??」

「もう黙っててよ~~~」


 フィリップの言い訳はさもありなんとフレドリクが頷いても、エステルの愚痴が入るのでフラットに戻される。


「えっと……まとめると、僕の人気が低すぎるから、上げるよりは兄貴がそれより低くなるのを待つほうが確実ってことなんだけど……これでいい?」

「ああ。なんとなくわかってた」

「さすが兄貴~」


 強引に民衆を集めた方法をまとめると、フレドリクも馬鹿ではないのだから気付いてくれていたので、フィリップも明るい顔をする。

 しかし、フレドリクにはまだ謎が残っているらしい。


「食料はどうしたのだ? 私の計算では、こんな大規模な集団に食べさせる食料なんて帝国にはないぞ」

「帝国にはでしょ?」

「まさか……アレもフィリップなのか??」

「そそ。ボローズとハルムに集めさせていたのは僕。それを最近、全部安値で買い取ったから、まだまだあるよ。来年分も予約してるから安心してね」

「ハハハハ。どこまで手を回しているんだよ。ハハハハ」


 もう笑うしかないフレドリク。ある程度知っているエステル以外は、かなり引いているけど……


「ついでに言うと、今ごろ国境の北と南にある国が内乱に乗じて挙兵してるだろうけど、僕の派閥が総動員で守っているから逃げ帰っているだろうね」

「ハハ、ハ……」

「最後の1人も引かせましたわね」


 さらに付け足すとフレドリクの笑いが止まったので、エステルがわざわざ教えてくれるのであったとさ。



「まだあるなら聞くよ~?」


 フィリップへの質問タイムは、皆、お腹いっぱい。フレドリクもギブアップみたいな仕草をしてる。


「じゃあ、今度は僕の番ね。兄貴たちにはやってもらわないといけないことがあるんだ。ニヒヒ」


 フィリップが悪い顔で笑うが、フレドリクたちは特に気にしていない。


「何をやらせたいんだ?」

「それが新皇后様が、兄貴たちに罰を与えないのかとうるさくてね」

「罰か……エステルの考えそうなことだな」

「いや、一千万人も殺してるんだから、あるに決まってるじゃん。えっちゃんは民の怒りを代弁してるだけだよ? そこんとこ忘れないで」

「う、うむ……」


 フィリップが現実を突き付けると、フレドリクたちも緊張する。


「んで、えっちゃんは僕に、兄貴たちをボコボコにしろって言うんだよ~。だから、5対2で決闘しよ?」

「決闘……それも5対2ってことは、エステルとルイーゼも加えてか??」

「うん、そう。それで僕たちが負けたら、皇帝を交代してもいいよ。いますぐは国民が納得しないだろうから、数年後だけどね。破格の条件じゃな~い??」


 またフィリップが「ニヒヒ」と笑っているので、フレドリクたちもあまり乗り気じゃない。


「普通に罰を受け入れるだけではダメなのか?」

「それじゃあ面白くないでしょ? 最強装備で室内訓練場に集合ね。皇帝命令だから、断れないよ~?」


 フィリップはそれだけ言うとエステルと腕を組み、カイサとオーセを連れて部屋から出て行くのであった……

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