116 直接対決延長戦2


 フィリップがエステルのふたつの大きな物を揉んで悪役を演じていたが、エステルにめちゃくちゃ怒られたので話を戻すしかない。質問タイムを再開する。


「てか、えっちゃんほど皇妃にふさわしい女性は、この世にいないよ。美貌、教養、礼儀作法、家柄……どこに出しても皇妃として恥ずかしくないのに、兄貴がフッた理由も僕が皇妃にするのを不思議がられるのも、僕にはさっぱりわからないな~」


 フレドリクが、エステルを妻に迎えることを質問していたのでフィリップの反論。その反論にエステルは嬉しそうにしているが、フレドリクたちにはまだ響かない。


「それは性格が……」

「悪くしたのは兄貴でしょ? 子供の頃は仲良かったよね? 僕、見てたから知ってるよ。それなのに婚約者がポッと出の女に盗られたら、そりゃ性格も悪くなるって。まぁ兄貴には、何を言っても響かないと思うけどね」

「それにしても、アレはないと思う……」

「僕はえっちゃんが大好きだから結婚する。それだけ! 次の質問は??」


 ここまで言っても通じないので、フィリップも不機嫌に話題を変える。ただし、エステルはめっちゃ嬉しそう。カイサとオーセは、なんか小声でキャーキャー言ってる。


「フィリップは、いつから皇帝になりたかったのだ?」


 フレドリクの次の質問は、今まで皇帝の椅子に興味を示さなかったフィリップを不思議に思っての質問だ。


「2年前だよ。奴隷制度を廃止なんてしなければ、兄貴はそのまま皇帝でいられたのにね」

「そんなに最近……てっきりエステルにそそのかされたと思っていた」

「んなわけないでしょ。てか、僕が辺境泊に会いに行かなかったら、帝国は今頃ドロドロの内戦になって、死者なんて総人口の半分ぐらいは出てたんだからね」

「そんなことには……」

「なるよ」


 フレドリクの言葉に、被せ気味にフィリップは割り込んだ。


「まず、間違いなく、辺境泊は奴隷制度廃止を反対した。そして周りを巻き込んで独立するか皇家に反旗をひるがえしていただろう。それを止めるのに兄貴が兵を出しても、すぐには内乱は終わらない。

 その間、奴隷解放のゴタゴタに一切手を付けられないんだから、元奴隷のほとんどは死んでたよ。辺境泊を倒しても、次は国民だ。他国だ。戦争ばっかり。これが、2年前に僕が思い描いた帝国の未来だよ」


 フィリップの簡潔な説明に皆は一様に考え込み、その中でエステルが一番先に声を出した。


「陛下は当家に来られたのは、味方を作るためとおっしゃていたではないですか? いまの説明では、当家が謀反を起こすから止めに来たことになりますわ」

「うん。身に覚えがあるでしょ? 領主を6人集めただけで、そんな話になったのも教えたじゃん」

「確かにそうですけど……陛下も乗り気でしたわよ?」

「アレは演技だよ~。どれだけ帝国に愛着あるか見てたの」

「……本当ですの?」

「独立したあとに帝国の内戦を止めに入ったほうが楽できるから、ちょっといいな~って思っただけだよ~」

「半分ぐらいはなびいていたのですわね……」


 どこまで本当のことかわからなくなっているエステル。その時、これまでの会話があまりにも賢すぎるので、カイサとオーセがフィリップの耳に左右から顔を近付けた。


「「あなたは誰ですか??」」


 そりゃ、フィリップの口からこんなに賢い言葉を聞いたことがないから、どうしても知りたくなっているのだ。でも、フィリップはステレオ放送で聞こえたので、気持ち悪そうに耳を擦ってる。


「僕だよ~? フィリップ、フィリップ。本当は超賢いんだよ~??」

「「信じられません……」」

「あとでいっぱいエッチなことして信じさせてあげるから、もうちょっと待ってて!」

「「その発言はプーくんちゃんっぽいけど……睨まれてるよ?」」

「えっちゃんも一緒にするから!」

「「だから睨まれるんだよ」」


 ちょっとはフィリップだと信じてもらえたようだけど、そのせいでエステルがオコ。太ももをつねられていたので、フィリップはフレドリクとの会話で怒りを逸らす。


「僕ね~。兄貴のことが大好きだから、こんなことしたくなかったんだよ。でも、兄貴が帝国を潰すようなことをしていたんじゃ、やるしかなかったんだよね」

「フィリップは、そこまで国を愛していたのか?」

「全然。お父さんとお母さんの言葉が無かったら、とっくに逃げ出してるよ」

「父上? 母上? フィリップは、私の邪魔をするなとか、私に頼れとか言われてなかったか?」

「そっちじゃない。兄貴が言われた言葉だよ。覚えてない?」


 両親からまったく頼りにされていなかった逸話は、だいたいの人が「そうだろうな~」とウンウン頷いている。


「父上は、帝国を任せる。母上は、立派な皇帝になってと……」

「それだよ。なのに一千万人も殺すなんて『何やってるの?』ってなるじゃん。僕は2人の言葉、守っていたよ。だから人前にも出ないようにしてたんだからね」

「そ、そうだったのか……」


 フレドリクは信じたようだけど、エステル、カイサ、オーセの目は冷たい。普段の行動を見ている者と見ていない者の違いが現れたのだろう。


「お父さんとお母さんが信じてやまない兄貴のせいで、国が滅んだら浮かばれないよ。だから僕が奪い盗ったんだ。これが、僕が皇帝をやる理由。わかってくれた?」

「そうか……父上と母上のためか……フィリップも、いつの間にか大人になっていたんだな……」


 フレドリクが優しい顔で見るので、フィリップは照れて目を逸らしたら、エステルのニヤケた顔が目に入った。後ろを見ると、カイサもオーセも同じ顔をしていたので、いたたまれないフィリップであった……


「ゴメン。その顔って、僕が子供に見えるって顔じゃないよね?」

「「「プッ……いえいえ~」」」

「やっぱり~~~」


 残念ながら、フィリップの見た目のせいで感動的なシーンは台無しになっていたのであったとさ。

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