115 直接対決延長戦1


 フィリップの勝利とフレドリクの敗北が決まった瞬間から宴が始まったが、フィリップにはまだやることがあるので、ここはホーコンに任せてフレドリクたちと一緒に帝都の中に入る。

 そこでも、フレドリクの敗北宣言とフィリップの皇帝就任を宣伝したら、祝福の声。中にはフィリップを非難する声もあったが、無視して今度は別行動となる。

 フィリップは外へ向かい、フレドリクたちは城へ。夜には城で食べるからと、派閥の人数分のディナーを発注していた。


 そうして外に出たフィリップは、馬車の屋根に乗って皇帝抗議隊の前列を行ったり来たり。たまに降りて、民衆が食べている物を一緒に食べてお腹を膨らませる。

 エステルは食べるのが気が引けたのか、派閥のテーブルに混ざっていい物を食べていた。衛生面が気になったようだ。

 派閥の者が昼食で腹を膨らませたら、早くも撤収準備。一千万人もここに残しておくわけにはいかないから明日には出発するので、下準備だけは始めている。大量に余っている食料は、民衆のお土産になるらしい。



 派閥の者が忙しく動き出した頃、フィリップとエステルはオープン馬車に乗って登城。フィリップの顔に気付いた住民は、手を振る者と不満な目を送る者と真っ二つに分かれていた。

 しかしフィリップは気にせず手を振り返し、エステルにも求める。中にはエステルの所業を知っている者がいるのか、何やらコソコソやっている者もいた。


 そんな帝都の中を進めば、帝国のシンボルでもある巨大な帝都城に到着。騎士の案内の元、フィリップたちはフレドリクのいる部屋に連れて行かれた。 

 そこには、フレドリクたちイケメン4とルイーゼが座っていたが、フィリップは壁際に立つ小柄な女性2人に目が行く。


「あっ。カイサとオーセ、久し振り~。こっちおいで」

「「えっと……」」

「いいのいいの。兄貴は僕に逆らえないからね」

「「では、失礼します! 殿下~~~!!」」


 カイサとオーセはフレドリクたちに気を遣っていたが、フィリップが呼ぶと頭を下げてから走って来た。


「兄貴たちに何もされなかった?」

「はい。フィリップ殿下が呼んでいると言われただけですので」

「でも、何が何だか……」

「アハハ。そりゃそうか。簡潔に言うと、兄貴は僕の策略に負けて皇帝の椅子から転がり落ちたんだよね~」

「「えっ!?」」

「ビックリした? まぁ詳しい話は、またあとでするよ。ひとまず、この美人さんを紹介するね」


 2人には馬鹿な姿しか見せていないから驚くのは当然。そんなわかりきった反応は置いておいて、フィリップはエステルを紹介する。


「こちらはエステル・ダンマーク辺境泊令嬢。僕の婚約者で、新皇后様だよ」

「「「「「ええぇぇ!!??」」」」」


 すると、全員、驚愕の表情。フレドリクたちはフィリップとエステルがイチャイチャしてる姿を見ていたのに、いまさら驚いている。


「「悪役令嬢……」」


 そこに、カイサとオーセがボソッと呟いた。


「シーッ! それ、僕がことあるごとに言ってたことでしょ。もう忘れて!!」


 なのでフィリップが焦って訂正すると……


「へ~……陛下は陰ではそんなこと言っていたのですの……」


 エステルにめっちゃ睨まれた。そのせいで、カイサとオーセも震えている。


「あ、これ、睨んでるわけじゃないよ? たんに目付きが悪いだけなの」

「いえ、いまのは正式に陛下を睨んでいましたのよ」

「マジで? 昔のことだし、もう思ってないから許して!」

「はぁ~……たまに言っていたじゃないですの。はぁ~」


 確かにフィリップは、何度もエステルの前で言っていたので言い訳は不発。しかし、ため息を吐き終わったエステルは、カイサとオーセに目を移した。


「それで……この2人が、例の専属メイドですの?」

「あ、うん。仲良くしてくれると嬉しいな~?」

「契約ですから仕方がないですわね。仲良くするかは約束できませんが」

「アハハ。えっちゃんの許可が下りたってことで」

「はぁ~……」

「「はあ……」」


 エステルは側室を紹介されたことのため息。カイサとオーセは話について行けない返事をして、顔合わせが終わるのであった。



「待たせて悪かったね。そろそろ本題に入ろう」


 フィリップとエステルがソファーに座り、カイサとオーセがその後ろに立つと、正面に座るフレドリクに語り掛けた。


「あ、ああ……それで、話とは?」


 フレドリクの質問に、フィリップはニヤニヤしながら返す。


「兄貴たちもイロイロ聞きたいことがあると思ってね。いまのままでは不満があるでしょ? なんでも答えてあげるから、質問したらいいよ」


 フィリップがそんなことを言うので、フレドリクはイケメン4に視線を送ってから頷く。


「ほ、本当に、エステルなんかと結婚するのか??」

「当たり前でしょ。それより、僕の妻を呼び捨てしないでよ。いや……兄貴は皇族だからいいのかな?」

「ええ。そうですわね。その他は許しませんわ」

「だって? って、話が止まってるね」


 名称で少し揉めそうになったが、フィリップは話を戻す。


「てか、こんなにいい女、他にいないよ? よくこんなにおっぱいの大きな女を袖にしたね。ホント、兄貴はもったいないことしたね~。アハハハ」


 フィリップは笑っているが、フレドリクたちにはいまいち通じない。それはエステルも一緒だ。


「陛下……人前で胸を揉まれますと、恥ずかしいのですわよ?」

「え~! 見せ付けてやろうよ~。なんか悪役っぽいじゃない? モミモミ」

「正義はこちらなのに、どうして悪役を演じないといけない……揉むなと言っているのですわ!!」


 どうやらフィリップ、ヒーローよりヒールだと思っていたっぽい。ヒールといえばエロイ女を侍らせて乳を揉んでいるシーンが頭にあったから、エステルにエロイ服を着せて、ヒーロー役のフレドリクに見せ付けたかったのだろう……


 そんな厨二なフィリップをエステルが叱責するので、フレドリクの質問タイムがストップするのであったとさ。

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