114 直接対決2


「まぁ僕のことはいいや。次はあの4人を連れて来て」


 フィリップの賢さ問題は、エステルたちまでコソコソやっていたので話題を元に戻すフィリップ。ホーコンが下がって4人の女性を連れて来たら、フィリップが紹介する。


「この4人は、兄貴にめちゃくちゃ怒っている人。5ヶ月前、僕と会った時に兄貴が殺した人たちいたよね? そのご家族だよ」

「アレは盗賊だ……」

「そう言わないと辻褄が合わないだけでしょ? だって、奴隷が奴隷制度を廃止されたのを怒って襲ったなんて言えないもん。お姉ちゃんも初耳じゃな~い??」


 フィリップがルイーゼに振ると、ルイーゼはフィリップとフレドリクを交互に見ている。


「あ、やっぱ秘密にしてたんだ」

「武器を持って襲われたのだから、盗賊として処理したまでだ」

「あんなにガリガリの人、兄貴たちなら取り押さえるぐらい余裕でしょ。てか、よくそんなことを遺族の前で言えるね」

「……」

「兄貴は謝る気はないみたい。僕が代わりに謝るよ。ゴメンね~。もう下がっていいよ」


 4人の女性は恨み節こそ言わなかったが、涙を流してフレドリクを睨みながら下がって行った。


「ぶっちゃけ今までの訴えも酷いと思うけど、帝国にとっては些事さじだよ。僕、言ったよね? 奴隷制度を廃止するなら時間をかけて丁寧にやれと……その結果、何人死んだ?」

「もうわかっているのだろ……」

「手紙の死者数は完全に予想だよ? まぁ1年目の数字だけは手に入れていたけどね。正確な死者数を教えてほしいな~? お姉ちゃんなら知ってるんじゃない??」


 フィリップがルイーゼを使おうとするので、フレドリクが先に答えを述べる。


「10021096人だ……」

「わ~お。当たってたんだ。でも、さすが兄貴。細かい数字まで覚えてるなんて、天才だね。それで……」


 フィリップに褒められてムッとするフレドリク。


「その死者数は発表したの?」

「する必要ない」

「また秘密~? ま、大虐殺してたら言えないか」

「何が大虐殺だ。たまたま不作になっただけだ」

「そのたまたまを兄貴が作り出したんだよ。どの国も不作じゃないのに、何で帝国だけ? 答えは決まりきっているよ。奴隷制度廃止を急いだせいだ!」


 ここでフィリップは初めて声を大きくした。


「何あの勅令!? たった5日でどうしろって言うんだよ!? そりゃどの領主も対応できないよ! だから奴隷を無策に解放するしかないんだよ! だから収穫量が減ったんだよ! だから国民が一千万人も死んだんだよ!! 僕、何か間違ってること言ってる!? 兄貴!!」


 フィリップはヒートアップして涙ながらに怒鳴ると、フレドリクは目を逸らした。イケメン4もそんなフィリップを見たことがないので黙ったままだ。

 しかし、ルイーゼは思うことがあるのか、涙を流しながら頷いている。


「う、うぅ……そうだね。フィリップ君の言う通りだよ。私があんなこと言わなければ、みんな死ななかったの……うぅぅ……」

「ル、ルイーゼ! それは違うぞ! 私が決断したことなんだ!!」

「うぅ……私のせいだよ……うぅぅ……」

「いや、私だ!」


 ルイーゼとフレドリクが罪の取り合いを始めると、そこにカイ、ヨーセフ、モンスも参入する。


「俺も反対しなかったから同罪だ!」

「私も加担したから同罪ですよ!」

「私も素晴らしい政策と言って後押ししたから同罪です!」

「みんな~。ごめ~~~ん。うわ~~~ん」


 その優しい言葉に、ルイーゼは号泣。5人で抱き合って泣いている。


「なんですの、この茶番は……」


 でも、エステルには不評。5人の空気感について行けない。


「まぁ勝手にさせておきなよ。全員、罪を認めたんだから僕たちの大勝利だ。ニヒヒ」

「一千万人を集めただけでなく、あの厄介な5人を同時に落とすなんて、怖い人ですわ」


 これがフィリップの最後の策略。ルイーゼたちを同席させ、フレドリクに文句を言っているように見せて、本当の狙いは嘆願書の内容をルイーゼに聞かせること。

 そうすればルイーゼが耐え兼ねて負けを認めるから、フレドリクたちも雪崩の如く落ちるのだ。ちなみにルイーゼに酷いことを言わないことが、この策略のミソだ。



 いちおう決着はついたので、フィリップはエステルとハグしてホーコンとは握手。派閥の者にも握手して周り、代表の民にはハイタッチ。

 それが終わるとフレドリクの元へ戻ったが、まだ変な世界に入っていたので「いい加減にしろ」と引き離した。

 それからエステルがフレドリクに原稿を渡し、それを民衆の前で読むようにと告げる。三行半みくだりはんは、どうしてもエステルがやりたかったらしい。


 そうしてフィリップとフレドリクは、馬車の屋根に作られた舞台に上がって民衆の前に顔を出した。


「よけいなことは言わないでね?」

「わかっている」


 フィリップがにこやかに手を振りながら確認すると、フレドリクは原稿に一度目を通してから口を開く。


「今回、多くの死者を出したのは、皇帝である私の失策だ。死者を出したご家族、並びに関係者に深くお詫びする。申し訳なかった」


 フレドリクが頭を下げると、民衆からどよめきが起こった。この大陸のキングオブキングと言っても過言ではない帝国を統べる人物が謝罪するとは思ってもいなかったのかもしれない。


「その責任を取って、私は辞任する! 後任はフィリップだ!!」

「「「「「わああああ!!」」」」」


 そして簡潔に述べられた説明に、民衆の声は弾けた。これでは喋ることもままならないので、落ち着くのを待ってフィリップが前に出た。


「新皇帝のフィリップだよ~? って、いろいろ思うことはあるだろうけど、まずはこの勝利を喜ぼう! この勝利は僕だけの物じゃない! みんなの勝利だ! おめでと~~~う!!」

「「「「「おめでと~~~う!!」」」」」

「今日は宴だ~~~!!」

「「「「「わああああああああ!!」」」」」


 こうしてフィリップの始めた戦いは、感謝の声、不遇な扱いを受けた者の涙声、素晴らしい未来が待っていると喜ぶ声が入り乱れ、それらの声はいつまでも途切れないのであった……



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 まだまだ続きます……って書くとすぐ終わりそうですね。

 次回からが、本当のクライマックスです!!

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