102 増援
フィリップの決起集会から3日。派閥の者はすでにダンマーク辺境伯領を立っており、フィリップもホーコンたちと共に馬車に乗り込み帝都に向けて出発した。
その後ろには、何台もの馬車が連なる。この馬車には大量の食料や大金、生活必需品が乗っているので、盗賊対策の騎士や兵士が武装して馬に乗っているが、その数は最低限でフレドリク皇帝にも手紙で知らせている。
さらに後ろには、若い男女の集団。およそ500人が長い列を組んで歩いている。この集団は、長旅に耐えられるメンバー。最低10日は歩くことになるし、ダンマーク辺境伯領で人手不足にならないように選ばれた。
その先頭車両では……
「なんで僕までこの馬車に乗らなくちゃいけないんだ……」
フィリップが肩身の狭い思いをしていた。
「いいではないですか。わたくしの親友ですのよ」
その理由は、エステルが親友のイーダとマルタと一緒にお喋りしながら移動がしたいため。フィリップは専用馬車で寝ながら進みたかったのだが、エステルに首根っこを掴まれて連れ込まれたのだ。
「えっちゃんはそりゃいいよ。僕、めっちゃ睨まれてるんだよ?」
「「がるるぅぅ!」」
「ほら!?」
イーダとマルタは、フィリップのことが大嫌い。いまにも噛み付きそうだ。
「なんでそこまで嫌っているのかな~?」
「また浮気してただろ……」
「女の敵め……」
「えっちゃん! この2人になに報告してるんだよ!?」
「たいしたことではないですわよ。オ~ホッホッホッホッ」
親友なので、エステルは愚痴だって話せる間柄。娼館通いや酒場でナンパしているところはバッチリ報告されている。というか、この2人を使ってフィリップに罪悪感を植え付ける作戦らしい……
「それにしても、殿下って本当に頭が良かったのですね」
「それそれ。私もあの演説にはビックリしました」
「それ、何回目だよ」
一通りフィリップを断罪したイーダとマルタは、
「でも、どうしてこんなに少ない人数なのですか?」
「辺境伯様なら、1万や2万の兵を軽く動かせそうなのに……」
「僕の悪口を言う人には秘密~。えっちゃんも言っちゃダメだよ? 僕、この2人のこと信じてないからね」
「まったく……子供みたいなこと言わないでくださいませ」
「子供だも~ん。言ったら愛人作りまくるからね!」
「「「それのどこが子供!?」」」
フィリップの反撃は、3人からしたらただのボケ。しかし、エステルにしたら本当にやられそうなこと。イーダとマルタは、エステルを守るためには質問をやめるしか手がない。
なので、またフィリップの女癖の悪さに話が戻っていた。
「そこまで言われて、どうして怒らないのですの?」
「その手があった!?」
「自分が皇族なのを忘れていたのですわね……」
フィリップはめったに立場を使わない人。女性を口説く際にも、見た目と話術で落としているのでその発想はないらしい。女性からは「こんなにかわいい子となら、まぁいっか」とか思われているらしいけど、フィリップは知る
「いい加減にしないと、僕だって怒るんだからね。お取り潰しだ~!」
だが、エステルから助言をもらったので、フィリップはここぞとばかり権威を使った。
「エステル様に頭が上がらないクセに~」
「エステル様に守ってもらいますぅぅ~」
「えっちゃん!? まったく言うこと聞かないよ!?」
「まぁいいじゃないですの」
「えっちゃんが怒れって言ったんでしょ~」
フィリップの叱責は不発。これはエステルが前もって「2人の悪口は自分が不問にするようにする」と言ってあるし、なんだったらエステルの代わりに攻撃させているからだ。
そうこうフィリップが針のむしろになっていたら、皇帝抗議隊は本日の宿泊場所に到着。高貴なメンバーや従者だけ宿屋に泊まり、その他は町の外で炊き出しとテントだ。
食事を終えて、ようやくエステルと2人きりになれたフィリップは、ベッドで抱き付きながら……エステルの柔らかい物をモミモミしながら愚痴を言ってる。
「なんであの2人を連れて来てるんだよ~」
「お茶会をする日取りがなかなか取れなかったからですわ」
「……わかっていると思うけど、この作戦には多少は危険があるんだよ?」
「ええ。だからこそですわ。失敗した場合、わたくしたちは死罪になるのですから、最後の時間ぐらい一緒にいたかったのですわ」
「そんな覚悟しなくていいのに……」
エステルたちの覚悟を知ってフィリップがモミモミをやめると、エステルはフィリップの顔を胸に埋めた。
「いざとなったら殿下が守ってくれるから、そのような必要はないのですけどね」
「うん。まぁ、えっちゃんたちを逃がすくらい余裕だけど……それが計算に入っているなら、やっぱりあの2人はいらなくない?」
「ウフフ。殿下はお強いのですわ」
「いや、聞いてる? ん……」
エステルの覚悟も、フィリップの愚痴もいまは必要ないこと。エステルは唇でフィリップの口を塞ぎ、この件をうやむやにするのであった……
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