103 再会


 ダンマーク辺境伯領の宿場町で一泊して食料を買い足すと、皇帝抗議隊は前進。今日のフィリップは、断固として専用ベッド付き馬車から動かなかったので、エステルたち3人はウッラを加えて他の馬車に乗っていた。

 ウッラがそこに放り込まれた理由は、フィリップの浮気対策。現にフィリップは専用馬車の窓からウッラを呼んでいたし、ウッラはエステルに睨まれて走って逃げていた。


 しかし、お昼の休憩を終えると……


「「うわ~~~。楽チ~ン」」

「なんで全員入って来てるんだよ!?」


 フィリップが寝ているのにも関わらず、エステルを含めた4人がフィリップ専用馬車に乗り込んで来た。

 イーダとマルタは、ベッド付きの馬車の存在を今日知ったらしい。ウッラは、備え付けの椅子に座って疲れた顔で外を見ている。悪役令嬢3人の相手は疲れたっぽい。


「狭いだろ~」

「ちょっとぐらい、いいじゃないですの。2人も欲しがっているから試乗させているのですわ」

「だったら、もう何台かあるからそっち行けよ~」

「そっちもいっぱいだったのですわ」


 ベッド付き馬車は大人気。貴族たちがオッサンどうしでも一緒に寝てるから、においが気になるエステルたちはこっちに来たらしい……


「揉むからね! うるさくて眠れないから揉むからね!!」

「もう……好きにしてくださいませ」


 こうなっては、フィリップも激怒。エステルの大きな物を揉みながら時間を潰す。そのエステルはというと、親友に見られているので顔が真っ赤。イーダとマルタは何を見せられているのかと、コソコソ喋るのであったとさ。



 この日はアルマル男爵が住む町で一泊。その前に、大事なお仕事。


「国民の命を奪ったのは誰だ!」

「「「「「皇帝です!」」」」」

「そんなヤツを許していていいのか!?」

「「「「「皇帝、許すまじ!!」」」」」


 フィリップの演説だ。ここはアルマル男爵から先に話が行っていたので、フィリップもすぐに認められ、500人の若者がついて来ることになった。

 そしてアルマル男爵邸で休もうと馬車で進んでいたら、屋敷の前に数十人の民が土下座して待っていた。


「アレは何かな?」


 その姿に、フィリップはエステルに助言を求めた。


「さあ? 殿下に何か訴えがある者でしょうか……無視してもよろしいかと」

「う~ん……それじゃあ僕のいい人設定が崩れるか。ちょっと顔だけ出して来るよ」

「馬車を止めなさい」


 フィリップの案にエステルがすかさず応えると、馬車は土下座する人々の前にて止まった。そしてエステルから外に出てフィリップを立てようとしたが、フィリップはもしもの危険があるからと自分から先に馬車を降りた。


「僕になんか用? もう立っていいから聞かせてくれる??」


 フィリップが優しく声を掛けたら、女性が勢いよく立ち上がった。


「エリク……いえ、フィリップ殿下! あたしだよ! 覚えてないかい!?」


 その言葉使いにエステルが何か言おうとしたけど、フィリップに止められた。


「ゴメンね~。まったく覚えてない。いや……そっちの男は見たことがあるようなないような……」


 フィリップは一度抱いた女ぐらいに思って本当に忘れているみたいだけど、女性の隣に立つ大きな男には見覚えがあるらしい。


「ここに集まっているのは、殿下が救ってくれた者たちだよ。こいつは、その時に護衛で雇ってくれた……マフィアのボスだよ!」

「護衛……マフィアのボス……あっ! ボス犬!?」

「ワンッ!!」


 フィリップが思い出したと同時にボス犬が吠えたものだから、エステルは引いている。しかし、フィリップはお構いなしに、とある宿場町で救った元奴隷の女性、ラウラと世間話をする。


「無事着いてたんだね。よかったよかった」

「そうだよ。まさか助けてくれた人が第二皇子殿下だったとは驚きだよ。それにこんなに良くしてもらえるなんて……その節は、本当にありがとうございました」

「そんなのいいって。それにしても、ボス犬はあの町に帰らないでここで何してるの?」


 ラウラたちが一斉に頭を下げるので、フィリップはムリヤリ話を変えた。


「こいつは……旅の間に、あたしに惚れたとかなんとかで、足を洗うなら考えてやると言ったら農夫になりやがったんだよ。それで、まぁ、ね?」

「アハハ。お姉さん綺麗だもんね。あの時とまったく別人になってるんだから、僕もわからなくてもおかしくないって」

「それもこれも、殿下のおかげだよ。それで……こないだ貰ったお金分には足りないだろうけど、こいつからは一晩だったらいいってなったんだけど……」


 ラウラが色目を使うので、フィリップはボス犬を見てからエステルを見たら、どちらも噛み付きそうな顔。なので、フィリップは冷や汗を流しながら答える。


「あの時の冗談を真に受けないでよ~……そうだ! あのあと、皇帝に遭わなかった? 大丈夫だった??」

「ああ。言われた通り昼に出たから、擦れ違いもしなかったよ。それに、男たちの墓があったから掘り返して最後の別れもできたよ」

「ふ~ん……兄貴たち、ちゃんと埋葬してくれたんだ……あ、そうだ。お姉さんたちって帝都まで来るの?」

「それが抽選に漏れちまって……それがどうしたんだい?」

「僕が数人捻じ込んでやるよ。兄貴たちに殺された人の声も直接ぶつけに行こう!」

「いいのかい!?」


 ラウラが驚いている間に、フィリップはエステルと相談。その結果4人までの随伴を許可され、殺された人の名簿を作るからとウッラに対応させていた。

 これでフィリップもいい人設定が守られたと、アルマル男爵邸に入って行くのであった。

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