098 フィリップからの手紙1


 帝都城……


 大量の麦と大金を持ち帰ったフレドリク皇帝は、カイ・リンドホルム近衛騎士長、ヨーセフ・リンデグレーン宰相、モンス・サンドバリ神殿長に出迎えられていた。


「暗い顔だな……上手くいかなかったのか?」

「いや、交渉じたいは上手くいった」

「フックンは帰り道でね……」


 カイたちはフレドリクの顔を見て心配していたので、ルイーゼ皇后から説明する。その説明は、フレドリクが盗賊の説得を失敗したことから始まった。


「そうか……初めて人を斬ったのか。俺も、その時は同じような気持ちになったから一緒だ」

「陛下が気に病むことではありません。盗賊が悪いのです」

「そうです。耳を傾けていれば、少しの罰で済んだはずですよ」


 カイ、ヨーセフ、モンスと励ましてくれたが、本当はルイーゼが悪魔と呼ばれたから斬ってしまったし、元奴隷を盗賊だと嘘をついているのだからますます落ち込むフレドリク。

 そこにルイーゼが励ましながら続きの話をしたら、フィリップが出て来たので、カイたちは首を傾げている。


「あいつ、どうしてそんなところにいたんだ?」

「戦争の時といい、読めない人ですね」

「でも、この事態を陛下のせいにするなんて酷すぎる」


 しばし3人からフィリップ批判が出ているが、フレドリクはルイーゼに掻い摘まんだ説明しかしていないので、また一段と落ち込んだ。


「で、でも、辺境伯様との話は上手くいったんだよ! 麦もお金もいっぱい貰えたんだよ!!」

「「「おお~」」」


 それを汲んで、ルイーゼは空気を変えようと明るい話題。麦の量と金額を聞いた3人は目を輝かせる。


「しかし、どこにこんなに麦があったんだ?」

「お金も、一領地が扱うには大きすぎる……」

「エステルが着服していたとか……」


 でも、疑問に思ってからは、エステル批判。全てダンマーク辺境伯領が真っ当に手に入れた物で、フレドリクが強引といっても過言ではないようにして奪って来たのに酷すぎる。

 その発言には、ルイーゼもぷりぷり怒り出した。


「もう! 辺境伯様が全て無償で提供してくれたんだから、そんなこと言わない! それに辺境伯様の領地は、農地ばかりですっごい活気があったんだよ!!」

「そ、そうだな。素直に感謝すべきだな」

「ええ。あの農地の広さなら、これぐらい持っていてもおかしくないですね」

「上手くやりくりすれば、来年の秋の収穫まで余裕が持てます」


 3人はいちおう感謝の言葉を述べているが、その顔は苦笑い。エステルには感謝したくないみたいだ……

 そのこともルイーゼに注意されていたら、フレドリクもようやく元気が出て来た。


「麦と金が手に入ったのだ。これから忙しくなるぞ。皆も協力してくれ!」

「「「おお!」」」

「お~!」


 こうしてフレドリクとルイーゼの旅は多大な成果をあげて終了し、カイ、ヨーセフ、モンスと共に、帝都民だけでなく帝国国民のために働くのであった……



 時は過ぎ、春……


 帝都周辺ではフィリップ式農業で育てた大麦の収穫が始まり、久し振りに活気が戻って来た。しかし、育成を失敗した農地もあるらしく、その報告がフレドリクたちの元へも届いている。


「まぁこの程度なら許容範囲内だろう。本番は、秋の小麦だ。秋までは持ちそうだからよしとしよう」


 フレドリクは肩の荷が少し軽くなったようだけど、まだまだ心配事が尽きない。それをヨーセフが確認する。


「なかなか物価が下がりませんね」

「それも秋頃になるだろうな……」


 ダンマーク辺境伯領から奪った麦とお金は上手く活用して物価上昇は止まったけど、高止まりしている。これはまだ、民の不安が取り除けていないし、充分な収穫がないから商人も下げるに下げられなくなっているのだ。


「ところで……今年の冬の死者数は出たか?」

「はい……」


 一番の心配事。冬を乗り越えられなかった元奴隷の数をフレドリクが聞くと、ヨーセフは言いづらそうに告げる。


「三百万人です……」

「「「……」」」


 昨年から減ったものの、数を聞くと言葉を失う一同。そこにフレドリクの声が響く。


「私たちの頑張りで、昨年の半分以下に減らせたのだ。ここは喜ぶべきところだ」

「そうだな」

「ええ」

「そうですよ」


 その声にカイ、ヨーセフ、モンスも笑顔を見せるが、これはほとんどフィリップの策とホーコンからの融資のおかげだ。

 3人はフィリップの策は気付けないが、ホーコンからの融資のおかげとは気付いていても、エステルがいるから口にはしない。

 しかし、モンスは気になることを口にする。


「この件も、皇后様には……」

「隠す。これまで通り、元奴隷を近付けないでやってくれ」

「わかりました」


 嘘に嘘を重ねたせいで場の空気がまた暗くなりかけたが、そこに執事が入って来てフレドリクに一通の手紙を渡した。


「フィリップからだ……なんだろう?」


 あんなこともあったからか、私的な手紙でもフレドリクは周りに気を遣わずに読み出したが、読み進めると複雑な顔になった。


「どうかしたのか?」

「なんて言ったらいいんだろ……要領を得ないのだ。でも、私を皇帝の座から下ろそうとしてる……のかな??」

「「「はあ!?」」」


 フレドリクが自信なさげにフィリップの手紙を説明したら、イケメン4は突然のことにとんでもなく驚くのであった……

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