097 別々の報告
フィリップが辺境伯邸に帰って来たその日は、エステルが部屋から出たのは昼過ぎ。夜通し走って帰って来たフィリップが眠りに就いてのことだった。
「その顔はなんですの?」
「いや~。嬉しそうだと思ってな~」
「お父様なんて大っ嫌いですわ!!」
「なんでお父さんだけ……」
ホーコンたちがニヤニヤしてエステルを見ていたからの八つ当たり。ウッラからフィリップが戻ったと聞いたホーコンは、エステルが満足するまでそっとしておこうと気を遣ってくれたのに、嫌われたのではかわいそうすぎる。
この日のホーコンは、辺境伯夫人に慰めてもらい、「もう1人どう?」みたいな盛り上がりをみせたらしい……
その翌日は、フィリップはお昼にムリヤリ起こされて、食堂でランチ。もうひと眠りと自分の部屋に向かおうとしたところで、エステルに首根っこを掴まれて執務室に連れ込まれた。
「昨夜もえっちゃんが寝かせてくれなかっ……は~い。しゃんとしま~す」
フィリップが文句を言ったらエステルにとんでもなく怖い顔で睨まれたので、珍しくソファーで背筋を正して座る。ホーコンはまたニヤニヤしていたけど、こちらもエステルに睨まれて背筋を正した。
「ゴホンッ! まずは皇帝陛下来訪の報告をします」
そしてホーコンは、フレドリク皇帝が来てから帰るまでの報告をして、
「わ~お。根こそぎ持って行ったんだ。兄貴も容赦ないね~……ん? こんなにあったっけ??」
聞いた話と勅令書の数字がまったく合わないので、フィリップも首を傾げているからエステルが補足する。
「殿下の指示通り、勅令書を
「あ、マジでやったんだ……」
「だって、ムカつきましたのですもの。
フィリップは冗談でアドバイスしていたようだけど、それを本当にやっていたので引き気味。しかしエステルとホーコンの愚痴を聞いていたら、いい気味と笑っていた。
「それでは殿下の報告も聞かせてもらえます? あと、何人抱いたかも……」
「最後のいる?」
エステルたちの報告が終わったら、次はフィリップ。抱いた女性の人数は少なく報告して謝ってから、帝都の話をする。
「城でも、兄貴たちの求心力は減ってるみたい。およそ3割減ってところだね。城の外は生活が苦しいみたいだから、5割近いかもね」
「本当に調べに行っていたのですわね……」
「やだな~。僕にだって、情報源ぐらいあるんだよ~?」
フィリップは前もって帝都の情報を探りに行くと言っていたのだが、エステルたちは眉唾物だったらしい。
「あと、各地も酷いモノだった。特に中間地点は……あ、そうだ。アルマル領に元奴隷を100人ほど送ったと伝えてくれない?」
「殿下がみずからですか?」
「ちょっとあってね~……」
中間地点の現状と
「あと、兄貴とも久し振りに会ったよ」
「それは作戦に支障が出ませんの?」
「まぁね……元奴隷を50人以上殺していたから、どっちかと言うとプラスだね」
「あのお優しい陛下がですの!?」
「うん。僕もいまだに信じられない。それほど切迫詰まっているか……」
「ルイーゼが関わっているか……」
言いたいことを奪ったエステルを見て、フィリップも頷く。
「僕は最初、口減らしで殺したのかと思ったんだけど、あとで考え直したら、兄貴の行動としてはおかしいんだよね」
「確かにそうですわね。これも強制力ですの?」
「かもしれない。あいつら、聖女ちゃんに酷いこと言ったのかも」
「またルイーゼですの……どれだけ帝国を掻き回せば気が済むのですの!」
「あの子は無自覚だろうけどね~」
しばらくルイーゼの悪口になっていたけど、乙女ゲームの知識がないホーコンが割り込む。
「これだけ陛下に批判する者が多いのですから、作戦を前倒ししてはどうですか?」
「う~ん……僕もやりたいんだけどね~。季節が悪い」
「そうですか……しかし、また死者が増えるのでは?」
「いま攻めても同じことだよ。寒さでバッタバッタと倒れちゃう。ちなみにこの前の冬は、七百万人死んだんだって」
「「そんなに……」」
「もう、笑うしかないよね~。アハハハ」
「「殿下……」」
フィリップは心配させないように笑っているが、一度その件で涙を見せてしまっているので、ホーコンとエステルは心配そうな目を向けている。
「さてと……そろそろボローズとハルムに集めさせていた麦を買い取ろう。いくらぐらい必要?」
「それでしたら……」
今まで2ヶ国とはこまめに連絡を取り合っていたので、ホーコンが最新の麦の量と金額を告げると、フィリップは嬉しそうに倍のお金を積み上げた。
そして予定していた金額の2割増しで払って機嫌を取るように命令しておく。これは向こうが価格交渉して来ると思って、先に言ってしまえとの策らしい。
「さあ! あともうひと踏ん張りだ。来年の春、兄貴を皇帝の椅子から引きずり下ろしてやろう!!」
「「はっ! 殿下の仰せのままに!!」」
こうしてフィリップの決意表明に、ホーコンとエステルは力強く応えたのであった……
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