099 フィリップからの手紙2


「まだそうとは決まっていない。皆も読んでみてくれ」


 フィリップからの手紙はいまいちよくわからないので、皆に回すフレドリク。ひとまずカイ近衛騎士長から目を通して、読み終わると全員複雑な顔。その答えをカイから述べる。


「やっぱり皇帝の椅子を狙っているんじゃないか? 十万人の元奴隷を集めるとか書いてるし」

「それなら武装してないから攻撃するななんて頼まないだろう。私のやり方に抗議するって書いてあるし」


 ヨーセフ宰相は抗議の部分に引っ掛かる。


「ここに一千万人の死者を出した責任とありますけど、どこから聞いたのでしょう? 今年の分は、ついさっき集計が出たのですよ?」

「本当だな……内部の線は……フィリップに協力者なんていたか?」


 この死者数は、フィリップの完全な推測。それが当たっているから、謎が謎を呼んでいる。しかし一向に答えがわからないので、モンス神殿長が話題を変える。


「フィリップ君、ずっと辺境伯領にいて指示を出していたと書いてますが……彼にそんな能力ありましたっけ?」

「ない。ないはずなんだが……それよりも、麦と金は無償で貰ったはずなんだが、どうして辺境伯から奪ったことになっているんだろう」


 ここが一番の謎。無能なフィリップがダンマーク辺境伯領を盛り上げ、元奴隷を何百万人も救っているのだから信じられるわけがない。

 さらにフレドリク本人が、ホーコンからタダでくれると聞いていることが泥棒に変換されているのだから、なに言ってんだってなってる。


「とりあえず、フィリップが私に会いにやって来るみたいだが……十万人も連れて来るってことは、やはり謀反ってことになるのか?」

「武装はしないとなっていても、脅威に思う者もいると思う。本当に集められたらだけどな」

「バックに本当に辺境伯がいたら集められるかも? 念のため、安全のための対策だけはしておくか」

「「「う~ん……」」」


 どうしてもフィリップの手紙の内容がよくわからないフレドリクたちは、首を傾げながら対策会議を始める。ただ、そのせいでやる気はなさそうだ。


「そうだ! あの2人を呼んでみよう。フィリップのことならよく知っているだろう」


 いまいちやる気の湧かないイケメン4は雑談が多かったので、フレドリクは執事に頼んで小柄な女性2人を連れて来てもらうのであった。



「あの……なんの御用でしょうか……」

「フィリップ殿下なら、まだ帰られていませんが……」


 この緊張している2人の女性は、フィリップの専属メイド、カイサとオーセ。帝国トップ4を前にして気圧されてしまっている。


「そう緊張するな。フィリップから手紙が届いたのだが、いまいちよくわからないから参考に聞きたいだけだ。これを読んでくれないか?」

「「はあ……」」


 フレドリクからキラキラした笑顔を向けられた2人はキュンとしていたけど、フィリップの手紙を読んだら笑い出した。


「アハハハ。フィリップ殿下がこんなに賢いわけないですよ~。アハハハ」

「それにフィリップ殿下が陛下に意見するなんて、あの頭じゃ無理ですよ~。アハハハ」

「「アハハハ……すいません!!」」


 カイサとオーセが急に笑い出したので、フレドリクたちはポカンとした顔。その顔に気付いた2人は同時に頭を下げた。


「いや、いい。それが率直な意見なのだろう。私たちもそう思ったし……」


 フレドリクから許しを得た2人は、ホッと胸を撫で下ろした。


「ちなみになのだが、最近フィリップと会ったか?」


 しかし、この質問にはオーセがカイサの顔を見てしまったので、フレドリクはそこを鋭く突く。


「会ったみたいだな……」

「あの……その……」

「はい……報告しなかったことをここにお詫びします」

「「申し訳ありませんでした!」」


 オーセがあたふたしたのでは、言い逃れできないとカイサがフォローして2人で頭を下げた。


「何も責めいるわけではないのだ。放任していたのは私だからな。ただ、帝国の死者数をフィリップが知っているのが気になっていたところなんだ。話をしたことを聞かせてくれるか?」

「はい……あれは4ヶ月前のことでした……」


 カイサからは世間話程度の内容だったのでフィリップの脅威度は下がったが、死者数の話は誰が伝えたかと聞かれたので、フレドリクに反感を持つ者の名前も言わざるを得なかった。


「なるほど……」

「フィリップ殿下は、その人の名前も聞いて来なかったから関係ありません!」

「謀反なんて起こす気ありません! ただ、陛下の心配をしていただけです!」

「自分たちの心配はしないのか? 謀反を起こそうとしている人物の名を上げたのだぞ??」

「「あ……」」

「冗談だ。フィリップのこと、心配してくれて感謝する。君たちが喋ったことも誰にも言わない。身を守ることも約束しよう。これからも、フィリップに尽くしてやってくれ」

「「は、はい!」」


 これだけフィリップに忠義のある2人だ。フレドリクは笑顔で許して退室させる。そのカイサとオーセはフィリップの部屋に帰ったら「キャーキャー」言ってた。あれこそ皇子様の笑顔だってさ。



「それで……どうする?」

「フックン!!」


 フィリップよりも、フィリップを立てて謀反を起こそうとしていた者の処置をカイが尋ねたその時、ルイーゼが息を切らして執務室に飛び込んで来た。


「ルイーゼ……どうしたんだ?」


 そこにフレドリクが駆け寄って肩を持ったが、ルイーゼは涙目でフレドリクの顔を見る。


「フックン……奴隷制度を廃止したせいで、一千万人も奴隷だった人が死んだの?」

「え……誰がそんなこと言ってるんだ?」

「突然フィリップ君から手紙が来て……」

「あ、あいつ……」

「フィリップ君が言っていること……本当なの??」


 フレドリクはどう答えていいかわからずに周りを見たが、そのせいでルイーゼは確信してしまった。


「本当なんだね……だからフィリップ君は怒って、抗議に来るんだね……」


 ルイーゼが知ってしまってはフレドリクも嘘を言えない。


「すまない。ルイーゼが知ると、自分のせいだと責めてしまうと思って……これは、私の決断が招いたことだ。ルイーゼが気に病むことはないんだ」

「ううん。フックンだけに背負わせられないよ。私、もっと頑張るから、一緒に帝国を良くしていこ?」

「あ……ああ! ルイーゼと一緒なら、私はいくらでも頑張れる!!」


 2人は決意の目で抱き締めあっていると、カイ、ヨーセフ、モンスは輪を作る。


「俺たちもいるぞ」

「ええ。私たちも頼ってください」

「私たちは、一心同体ですよ」

「「みんな……」」


 こうしてフィリップの手紙からフレドリクたちの結束は強くなり、帝国の危機に立ち向かうのであった。


 ちなみにフィリップのことは、「その場しのぎでなんとかなる」って決定したらしい……

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