075 フィリップの視察2


 フィリップたちはダンマーク辺境伯領で一泊、北のレイヨンボリ伯爵領で一泊したら、派閥のベングト・レイヨンボリ伯爵が住む町に到着した。滞在の間は伯爵邸でお世話になるので、フィリップたちは町並みを見ながら馬車を進ませる。

 そして伯爵邸の玄関扉前に着くと、出迎えは白髪の目立つ執事のみ。しかし中に入ると、筋肉質の中年男性レイヨンボリ伯爵は、一家総出で出迎えていた。


「これはこれは……エリク様と呼んだほうがよろしいですかな?」

「様じゃなくて、君でいいよ。立場的にはそのほうが自然でしょ?」

「ははっ! エリク君、ようこそ我が家へ」

「出迎えご苦労様」

「「「「「はは~」」」」」


 フィリップは子供に見えても第二皇子。伯爵家から見たら殿上人と言っても過言ではないので、本当は外でしたかった出迎えを、秘密厳守だから玄関でしたみたいだ。

 この日は時間も時間なので、レイヨンボリ伯爵家族の紹介を受けて、豪華な夕食を平らげるのであった。

 ちなみに御者の2人は宿屋で休むので、フィリップが金貨を握らせて「娼館の調査して来い」と命令していたから「ヒャッホ~!」とか言って凄い速さで町に消えていた。



「よく我慢できましたわね」


 その夜は、お風呂を済ませたフィリップたちは川の字でベッドに横になっていたら、エステルが褒めていた。


「なんのこと?」

「伯爵の娘をジロジロ見て品定めしていたじゃないですか?」

「アレはあのオッサンが押し付けて来たからでしょ~。てか、この世界の女性はモブのくせに綺麗だから、どうしても目が行ってしまうんだよ」

「モブとはなんですの?」

「なんて言ったらいいんだろ? 主要の登場人物じゃない人のことかな。この世界の人、不細工な人が少ないんだよね~。たぶん、絵師さんの世界観が反映されていると思うんだ」


 フィリップの話は、詳しく知っているはずのエステルでもよくわからない。だが、ひとつだけは理解できる。


「だから殿下は、位を関係なしに抱けるということですの?」

「まぁ……ウッラも普通にかわいいもん」

「そ、そんなことないですよ! お嬢様のほうがかわいいに決まってます!!」

「そりゃそうだ。えっちゃんは別格だもん」

「ですよね!!」


 フィリップが「ウッラがかわいい」と言うと、エステルは複雑な顔。しかし2人で褒め称えると、微妙な顔に変わった。


「もういいですわ。明日は早いのですから、寝ますわよ」

「じゃあ、まずはえっちゃんから~。ムフフ」

「もう……ウッラに見られているのは恥ずかしいのですわよ」

「私も恥ずかしいです……」

「いいではないかいいではないか」

「「あ……」」


 2人から恥ずかしいと言われても、フィリップはお構いなし。悪代官みたいになって、夜を楽しむのであった……



 翌朝、レイヨンボリ伯爵のメイドがノックする音でウッラから目を覚まし、フィリップはしばらくエステルに抱き付いてからお着替え。フィリップは自分で着て、エステルはウッラに着付けをしてもらっていた。

 それから朝食を済ませたら、フィリップとエステルは応接室で当主のベングト・レイヨンボリ伯爵と喋る。


「今までよくやってくれたね。これからも頼むよ」

「はっ!」


 ひとまず、フィリップは簡単な褒め言葉。レイヨンボリ伯爵はそれでも嬉しい模様。エステルは……フィリップの言葉使いがいつも通りでオッサンが感動しているので笑いそうになっている。


「何か褒美をあげたいけど、僕が皇帝になるまでもうちょっと待ってね」

「はっ。もったいないお言葉。殿下が皇帝になられるまで、粉骨砕身する所存です」

「堅い堅い。とりあえず、ここも財政が厳しいだろうから、これだけ受け取っておいて。えっちゃん」

「はっ。軍資金の白金貨100枚でございますわ」

「こんなに!?」


 フィリップに呼ばれたエステルがテーブルに置いていた風呂敷を開くと、レイヨンボリ伯爵は驚く。辺境伯邸で居候しているフィリップがこんなに持っているとは思っていなかったから、虚を突かれたみたいだ。


「派閥の者には全員あげるから、遠慮なく受け取ってくれていいよ。でも、正念場は冬になると思うから、無駄遣いしないでね」

「はっ! 大事に使うことを約束します」

「だから堅いって。気楽に行こう」

「はは~」


 皇族から褒められた上に大金を貰ったのだから、フィリップがどう言ってもレイヨンボリ伯爵は敬うことをやめない。しかし、これで忠誠心のパラメーターは上がったので、フィリップもエステルも来てよかったと思うのであった。



 レイヨンボリ伯爵領での滞在期間は、たったの2日。空き時間は数時間しかないので町を見て回るだけの視察を行うのだが、フィリップはやる気がないからほとんどデート。


「いま、すれ違った女の胸を見ていませんでした?」

「マジで? まったく記憶にない……見てたのかな??」

「自分で気付いてないなんて、重症ですわね」

「いや、見てないから記憶にないんじゃないかな~? 町並み見てたような気がするし……」

「町並みではなくて、町を歩く全ての女を見ているのではなくて?」

「あっ! それだ! だからインパクトのない女性は記憶にないんだな~。勉強になったよ」

「なんの勉強なのですの……まったく……」


 エステルとしては他の女を見るなと言いたかったみたいだけど、フィリップは予想の上を行きすぎているので通じず。呆れて何も言えなくなっている。


「いえいえ、視察中なのですから、ちゃんと見てくださいませ!」

「あ、そうだったね。次は色街に……」

「行くと思っていますのぉぉ?」

「は~い。冗談で~す。新型馬車の製造工場を見に行きま~す」


 頭の中がピンク色だったフィリップも、エステルが激怒しているので、渋々視察に力を入れるのであったとさ。

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