074 フィリップの視察1
4月。帝国では農業の大改革が行われ、フレドリク皇帝たちは凄まじく忙しくしていると報告が入ったけど、ダンマーク辺境伯領ではすでに終わっていることなので平和なモノ。
元奴隷の移動もフレドリクのおかげで落ち着きを見せているが、フィリップは冬には再燃すると予想している。でも、いまは暇を持て余している。
「いや~。絶好の新婚旅行日和だね」
「もう……結婚もしてないのに気が早すぎますわ」
なので、フィリップとエステルは旅に出た。フィリップは新婚旅行とか言っているけど、この旅の目的は派閥の領地を巡って結束を固めること。エステルはそれはわかっているけど、新婚旅行と聞いて照れてる。
移動手段は、フィリップ専用馬車。少し小振りだが、サスペンション内蔵なので揺れは軽減されている。内装は、ほぼフラット。スプリング内蔵のマットが敷いてあるので、揺れはさらに軽減されて寝ていても目的地に着いてくれる優れ物。
これだけ快適に進めるのだから、馬車嫌いのフィリップも馬車に乗っているのだ。というか、遅いのもそうだが、揺れが酷すぎるから嫌いだったらしいけど、自分で作り上げたのだから気に入らないわけがない。
「本当にこの馬車は、何度乗っても気持ちいいですわね。この
エステルも大満足。フィリップの隣で寝転んだままだ。
「眠るだけでいいの~? これならいつでも始められるんだよ~??」
「もう……服に手を入れないでくださいませ。前と違ってウッラが同席しているのですわよ」
「見てないから大丈夫じゃない?」
「アレは、主人に気を遣って目を逸らしてくれているだけですわ。いい加減にしないと怒りますわよ」
「チェッ……」
フィリップのエロイ手は、エステルにつねられて頭の下へ。前回一緒に乗った時は、エステルもちょっとくらいは許してくれたので、フィリップは拗ねたアピールしている。
ちなみにウッラが乗っている理由は、エステルのお世話係。今回は、エステルは
ただ、ウッラはエステル直々に任命されたから、めっちゃ驚いていた。フィリップと関係があるのだから、狭い車内では気まずくて仕方がないので、唯一ひとつだけある備え付けのイスに座ってずっと外を見ているのだ。
「ウッラもこっち来たら? 気持ちいいよ??」
それなのに、フィリップは頭がおかしい。いや、まったく空気を読まない。
「ななな、何を言っているのですか!?」
「いいよね?」
「いいわけありませんよ!!」
さらにエステルにまで聞いているので ウッラはとんでもなく焦っている。
「そうですわね……元々わたくしのせいでウッラがこんなことになっているのですから、よろしくてよ」
「お嬢様……そんな……」
「というか、あなたを連れて来たのは、殿下を夜に出歩かせないためですわ。わたくし1人では満足しないのですわよね?」
「え~。僕って信用されてないの~?」
「たまに出掛けているのは知ってますわよ? お父様とコソコソ出掛けたこともありましたよね??」
「バレて~ら。アハハハ」
ここまで知られてしまっていては、フィリップも笑うしかない。その顔も反省の色がないので、エステルはため息を吐いて呆れてる。
「ですから、ウッラにも頑張ってもらわないといけないのですわ。せめてこの旅の間だけは、殿下に他の女を近付かせませんことよ」
「は、はい! 失礼します」
エステルから命令されたからには、ウッラも免罪符を得たので、靴を脱いでマットレスの端に横になった。ただ、その位置はフィリップとしては不満なのか、エステルに覆い被さって乗り越え、ウッラを引き寄せて2人の間でニヤニヤする。
「アハハ。きんもちいい~」
「はぁ~。どれだけ女好きなのですの……」
「お嬢様、申し訳ありません……」
「よきにはからえ~。アハハハ」
こうしてフィリップは両手に花で、上機嫌に笑い続けるのであった。
でも、馬を操る2人の男は時々聞こえる声に、羨ましくなったり腹が立ったりするのであったとさ。
それから二度ほど休憩したら、辺境伯領最北の宿場町に間もなく着くと御者から聞いたので、フィリップもエステルたちにちょっかい出すのはやめて窓に張り付く。
「う~ん……のどかな田舎町。というより、どこに行っても畑だらけだね。あ、僕のせいか。もっと綺麗な領地だったのだろうけど、農地ばかりにしてゴメンね」
「そんなこと思ってませんことよ。元々我が領地は、輸出と輸入、通行料で稼げていましたから、他の産業はおざなりでしたの。殿下のおかげで我が領土は、さらに力を付けたはずですわ」
「そう言ってもらえるとありがたいけど、僕が皇帝になった時のことを考えると、辺境伯が最強の敵になっちゃいそうで怖いね」
「そうですわね。わたくしを
「おお、こわっ。女遊びに許可が出てなかったら、何回攻められたことか……」
「程々にすることをお薦めしますわ」
今ごろ辺境伯が敵になったことを考えたフィリップであったが、女遊びをやめるという選択はまったくないのであった。
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