063 不穏な動き


 2月の始め……


 ダンマーク辺境伯領では相変わらず元奴隷が農業に精を出し、冬でも育つ作物も大量に収穫している。皆が忙しくするなか暇を持て余したフィリップは、庭で焚き火。

 フィリップが火を見詰め、たまに棒でつついてニマニマしていたら、突然エステルが真横に現れた。


「殿下!!」

「うわっ!? こわっ!? アハハハハハハ」


 その現れ方は、地面にある木の影からエステルが出て来たので、フィリップは笑ってる。でも、目が笑ってないから、怖すぎたから笑っているのだろう。


「訓練してやっとできるようになったのですから、そんなに笑わなくてもいいではないですか」

「ゴメンゴメン。ビックリしすぎて……てか、僕を驚かそうと、こっそり訓練してたんでしょ~?」

「ウフフ。そうですわ。ドッキリ大成功ですわ。オ~ホッホッホ~」

「笑ってるとこ悪いけど、寿命が縮みそうだから、その登場はできればやめてほしいな~?」


 フィリップの訴えは却下。エステルはフィリップの驚く顔が見たいらしい。例え、フィリップの寿命を縮めたとしても!


「いや、まだ心臓バクバク言ってるよ?」

「ウフフ。そんなにわたくしにときめいてくれたのですわね……そんなことより!!」


 フィリップが「どう考えてもときめきではない」とツッコもうとしたのに、エステルが大声出すので出来なかった。


「何やら我が領地を嗅ぎ回っている輩がいると報告を受けたのですわ」

「なるほど……兄貴の刺客が僕を殺しに来たってわけだね……」

「そ、そうなのですの??」

「だと面白いかな~っと」

「ふざけないでくださいませ!!」

「は~い」


 妙に迫力のある言い方でドッキリ返ししたフィリップであったが、耳がキーンってなるぐらいエステルに怒鳴られたので真面目に話す。


「帝都のヤツが、うちの財政を調べに来たんじゃない? または、やり方をパクリに来たとか……どちらにしても、大物が来てる可能性があるね」

「大物と言うと?」

「う~ん……筋肉担当は前に来たから、ロン毛担当……いや、メガネ担当が適任かな? 僕ならメガネ担当を送り込むね」

「どれも誰のことを指しているか、さっぱりですわ」

「アハハ。そりゃそうだ。宰相のヨーセフが来てるかも?」

「それはまた厄介ですわね……」


 エステルを敵視している者がやって来ていると聞いて、断罪の日を思い出して体を震わすエステル。フィリップは棒で火をつついてる。


「ま、そんなこともあろうかと、辺境伯には外出を控えさせて病気の噂も流したんだから、大丈夫大丈夫。戻ったら、病人っぽく寝てるように言っておいて」

「いえ……エリクも戻りますわよ!!」

「あ~! 僕の焼きイモ~~~」


 緊急事態も対策済みなので、フィリップはやる気なし。しかし、エステルに首根っこを掴まれ、引きずられて辺境伯邸に拉致られるのであった。

 ちなみに焚き火は燃えたままでは危険なので、メイドが火を消しに走り、フィリップの育てた焼きイモはスタッフが美味しくいただきましたとさ。



 辺境伯邸では急遽対策会議が開かれ、ホーコンは病人メイク。フィリップは女子メイクをしてドレスアップ。


「どうせ屋根裏部屋に押し込むんでしょ?」

「いつ来るかわかりませんので、念の為ですわ。プッ……」

「ぜったい必要ないって~~~」


 フィリップがブーブー言っていても、メイドが囲むので逃げ出せず。この日はヨーセフが現れなかったので、機嫌が悪くなるフィリップ。

 そして2日間、ドレスを着せられ淑女教育を受けさせられたフィリップは、完全に女の子になりきっていた。


「エステルお姉様、今日、宰相閣下が訪ねて来ると連絡がありましたのよね?」

「そうですわ。前日に使いが来ましてね。会わないと皇帝陛下に失礼とか、わけのわからないことを言って来たのですわ。突然来て当主に会わせろなんて、どちらが失礼かは明白ですわよね?」

「ですよね~? ……って、連絡あったなら昨日からドレス必要なくない!?」

「「「「「あははははは」」」」」


 フィリップのノリツッコミが炸裂すると、一同大爆笑。皆もそのことに気付いていたけど面白いからエステルに付き合っていたので、涙を流しながら笑ってるよ。

 そんな笑い声のなか、外を見張らせていた者が馬車がやって来たと呼びに来たので、フィリップはウッラに後ろから抱き上げられる。


「また屋根裏部屋!? 覚えていろよ~~~……」

「「「「「あははははは」」」」」


 当然、フィリップの顔を知られている者に見られるわけにはいかないので、屋根裏部屋に隔離。皇族が大声で捨て台詞を残しているのに、エステルたちは笑い続けるのであった。


「てことは、ウッラは僕の世話係で残るんだよね?」

「はい……手加減してください……」

「がお~」

「あ~れ~」


 しかし、フィリップは特に嫌がる素振りを見せないウッラと、この時間を有効利用するのであったとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る